仏教やキリスト教・イスラム教など、主催者発表で300人を超える宗教者・信者が、5月31日午後2時より、築地本願寺(東京都中央区)で「『戦争法』廃止・憲法改悪阻止をめざす宗教者・信者全国集会 『殺さない 殺させない』―今こそ、宗教者・信者として―」を開催した。参加者らは、7月10日に投開票が行われる参議院選挙で「戦争法に賛成する議員には投票しない」ことを呼び掛ける運動を全国に広げていくことを確認するアピールを採択した(本記事の最後にその全文を掲載)。
この集会の終わりに「原子力行政を問い直す宗教者の会」事務局長の長田浩昭氏がアピールを読み上げて行動提起をすると、採択の際に参加者からアピール文の文言について、「宗教者の会なので、主権者たる国民とは誰のことを指すのか」という質問が出され、「主権者たる国民」という表現を「平和を愛する全ての人々」と書き換えた上でアピールは採択された。
開会と閉会時には、各人の信仰に従って礼(らい)拝が行われた。
開会後、この集会の呼び掛け人を代表し、仏教学者の山崎龍明氏(「戦争法案」に反対する宗教者の会代表)があいさつした。山崎氏は、「私はこの国が大変嫌な感じの国、あるいは何か息苦しい国になりつつあるということをこの数年、特に強く感じている」と語り、その例として特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認・緊急事態条項がもくろまれていることが「実に危険極まりないことだ」と語った。
「要するに国民にものを見えないようにし、言わせないようにし、聞かせないようにしようとする。これは何にも増して一番危険なことではないか」と山崎氏は警告した。「そして自衛隊をアメリカに差し出すという、こんな無謀なことを行おうとしている。そしてまた、ドイツ・ナチス政権が行った緊急事態、政府が緊急事態と判断したならば法律に先行して何をしてもいいという、断じてこれは許されることではありません」
「戦争というのは人間最大の蛮行であり、罪であると思っている。そういうものを歓迎するような向きがある面は、きちっと摘み取っていかなければならない」と、山崎氏は述べた。「戦争は人間を極限の悲しみに落とし込む。そして全て破壊する。戦争によって幸せになることは断じてあり得ないことではないか」
「戦争を遂行するためのあらゆる方法に関しては、どんなことがあってもノーと言っていかなければならない。『殺してはならない。殺させてはならない』。そのことが私たち信仰者の存在証明であり、最大限度の倫理だと考えている」と、山崎氏は話した。
山崎氏は7月10日に投開票が行われる参議院選挙について、「この選挙は実に大事な選挙。『あなたは平和を取りますか?戦争を取りますか?』というところに来ているのが、このたびの選挙だ」と語った。
その後、野党4党(民進党、共産党、社民党、生活の党)の各代表者がそれぞれあいさつし、両手を高く握り合って、野党共闘を表明。また野党共闘を呼び掛けてきた「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の筑紫建彦氏もこれに加わり、会場から大きな拍手が湧いた。
その後、筑紫氏が連帯のあいさつをし、同委員会では6月30日まで「戦争法の廃止を求める2000万人統一署名」を当面続けると発表しているとして、これに協力を呼び掛けた。
その上で筑紫氏は、「6月5日(日)、私たちは、『政治を変える、市民が変える』というスローガンで、国会を包囲します。そして国会だけではなくて、霞が関の官庁街でも、去年の8月30日のような情景を目指したいと思っています。また、6月19日には、沖縄で怒りと悲しみの県民大会が開かれます。私たちもこれに呼応して、やはり国会の正門前を埋めたいと思っています」と述べた。
「ぜひ皆さん、そういう行動をこれからも続けましょう。私たちの命と平和への祈りと行動だけがこの次の未来を守り創り出していくということをしっかりと確認し合いながら進みたいと思います。頑張りましょう」と筑紫氏は呼び掛けた。
総がかり行動実行委員会が作成した6・5全国総がかり大行動のチラシによると、この行動は、同日午後2時から国会正門前ステージと農水省・霞が関郵便局ステージ、日比谷公園かもめの広場ステージで行われるほか、午後2時半に全国で一斉パフォーマンスが予定されているという。
続いて、憲法学者の清水雅彦氏(日本体育大学教授・憲法学)は「安倍政権の憲法改正への戦略、その問題点」と題して基調講演を行った。
『憲法を変えて「戦争のボタン」を押しますか?「自民党憲法改正草案」の問題点』(高文研、2013年)などの著書がある清水氏は、「自民党改憲案の内容と問題点」について、その基本思想や前文、天皇(1章)、平和主義(2章)、人権(3章)、統治に言及するとともに、改憲論における緊急事態条項論をめぐる最近の代表的な議論や、中山太郎氏の「緊急事態に関する憲法改正試案」(2011年)と自民党の「日本国憲法改正草案」(2012年)の主な内容や問題点、国家緊急権を容認する事例、日本国憲法の場合における国家緊急権に言及した。
清水氏は、国家緊急権論が「全面改憲のための『お試し改憲論』であり、これだけで危険な改憲」だと述べた。そして改憲論との向き合い方として「まずは理念の実現、望ましいのは国民の側からの国家制限論」だとした。
さらに清水氏は「戦争法に対抗する理論と運動」について「戦争違法化の歴史と憲法の平和主義」「安倍の『積極的平和主義』と憲法の平和主義」「戦争法反対運動の成果と課題」という観点から述べた。
清水氏は終わりに「以上の改憲案・最近の状況から思うこと」として、安倍晋三・安倍政権と中曽根康弘・中曽根政権の共通性を指摘した。
「中曽根首相は『サッチャー首相のような大統領的首相になりたい』と言い、安倍首相自身が大統領的首相に着々と突き進んでいる。国会でも『私は立法府の長』と何回も言っている。何回も言うからには、これは確信犯みたいなもので、行政府の長と立法府の長を兼ねたいかのような願望が出ているのかもしれないし、国家安全保障会議の設置や聞く耳を持たない政治手法などは、まさに大統領的首相になろうとしている」と清水氏は述べ、「もし自民党の改憲案の緊急事態条項を盛り込まれたら、内閣総理大臣が簡単に緊急事態の宣言を出し、内閣で政令を出していくわけであって、本当に大統領的首相になりかねない」と警告した。
その上で清水氏は、「そういう意味でもこれからの選挙は、単に戦争法廃止のために野党が頑張って選挙に勝つだけではなくて、こういう危険な改憲をさせないという意味でも大事な選挙になりますから、私も声を上げていきますけども、皆さんも野党共闘・そして選挙に勝つ、選挙が終わっても地道な市民運動を続けていく、そういう取り組みを全国くまなく続けていきましょう。共に頑張りましょう」と結んだ。
その後、この集会の呼び掛け団体から、日本宗教者平和協議会理事長の荒川庸生氏、カトリック東京大司教区司祭でカトリック中央協議会事務局長の宮下良平神父、お題目九条の会会長の石黒友大氏、平和を実現するキリスト者ネット事務局代表の平良愛香牧師、日本キリスト者平和の会代表委員の吉田吉男氏、そして協賛団体から日本イスラーム文化センター事務局長のクレイシ・ハールーン氏が、それぞれあいさつした。
荒川氏は、「今の状況というのは、時代の変換の時に立たされている(状況)。戦争によって殺された子の弔いを親がするような状況は断じて生じさせてはならないと思っている。日本宗平協の考え方としては、今大変な状況にあるところの沖縄の問題、原発の問題、そして戦争法の問題は、明らかに通底している事柄であると理解している。私どもは23日から25日まで沖縄の名護で理事会を開催した。沖縄はまさしく今怒りが沸騰し、苦しみ・悲しみが頂点に達している。私どもは辺野古の海で抗議船に乗りながら祈りをささげ、かつ嘉手納の基地前で命を奪われた20歳の女性の方への追悼と全ての沖縄の基地がなくなることを念願して祈りの集いを行った。クリスチャンであった伊江島の阿波根昌鴻(あはごん・しょうこう)さんの非暴力による米軍との闘いに学びつつ、戦争法の廃止・憲法改悪阻止の闘いをこれからも進めていきたい。宗教者・市民・野党4党の皆さんと連帯しながら共に闘っていきたい」などと語った。
続いて、宮下神父は、昨年2月25日の司教団メッセージ「平和を実現する人は幸い〜今こそ武力によらない平和を」に言及するとともに、常任司教委員会による今年4月7日付の声明「今こそ武力によらない平和を―安全保障関連法の施行にあたって―」から、「3.日本国憲法と戦争放棄」の一部と、「4.集団的自衛権行使の是非」にある最後の二つの段落を読み上げた。
宮下神父は安保法制案が「可決」された昨年9月19日に国会前で見た老夫婦の姿に「感動し、涙を流した」と語り、「これほどまでに大切にしたいと思っているという人たちが雨の中でも来ているということで、私たちが決して忘れてはならない大切なものを先輩から教えられているような気がする」と述べた。
「私たちはそれぞれの場で、これを次の世代に伝えるために、しっかりと自分の思いを伝えて、そして多くの人たちの賛同を得て、今の危ないこの日本の国をしっかりと平和の中で守っていきたいと思います。頑張っていきましょう」と宮下神父は結んだ。
次に、お題目九条の会会長の石黒友大氏は、「縁によって生ずる現代のありとあらゆる思想や経済や政治もまた、不可思議な心より生ずる実相(ありのままの姿)なのだと気付くまでの道のりが宗教であって、そのように生きる姿に、人は心を打たれ、理屈抜きに生命の尊さとありがたさを感ずるのであります。そのような精神的向上を今に顕現(けんげん)し、さらには後の人類にその醍醐味を味わっていただくため、世界平和建設の礎に微力ながら祈りを集結させようではありませんか。悪しき政治・悪しき経済・悪しき国家を、目前の宗教的信念によってすっぽりそのまま丸ごと包み込みましょう」と呼び掛けた。
「世界のいかなる宗教も生きるためのものであり、殺すためのものではありません。心自由に、心豊かに生きるための知恵の源であります。私たちは抗して結集し、悪しき戦争へ向かおうとする国政に対し、それぞれの宗教的かけがえのない救いをもって立ち向かおうとしております。その宗教的精神と信念、それは決して排他的独善ではなく、宗教的真理に基づいた、まさに大いなる寛容の精神であります」と石黒氏は語った。
「憲法9条はそれぞれの宗教の教義を超えた世界平和の実現に向けた神仏の計らいの賜物であり、願いであります。それは日本という世界に唯一、原爆という罪悪を経験した私たちが、世界の果ての果てまで届けなければならない、日本人の魂の祈りであります。私たちが行動と生き方によってその祈る姿を示さねばなりません」と石黒氏は訴えた。
「全ての生きとし生けるものは神の子であり、そして仏の子であるという自覚の下に、安倍総理をも包み込む、愛深き、慈悲深き精神が本当にわが心に備わっているのかと問い続ける謙虚な生き方と祈りにこそ、この今に世界平和とその姿は顕現するのであります。今こそ一同に、わが心と生き方に懺悔の誠を尽くし、己の心の内と外に住む神と仏に平和の祈りをささげまつることを誓います」と石黒氏は結んだ。(続きはこちら>>)
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