日伊国交樹立150周年記念「カラヴァッジョ展」が1日から、国立西洋美術館(東京都台東区)で開催されている。西洋美術史上最も偉大な芸術家の一人であり、イタリアの17世紀を代表する大画家、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571~1610年)の名作11点と、彼の影響を大きく受けたカラヴァジェスキと称される画家たちの作品を合わせた51点が展示される。本展では、2014年に発見されたカラヴァッジョの真筆「法悦のマグダラのマリア」(1606 年、油彩/カンヴァス、個人蔵)が、世界で初めて公開される。
カラヴァッジョは、西洋美術史における最大の変革者の一人だ。モデルを忠実に描くリアリズム、デッサンを行わずにカンバスに直接描く手法、モチーフの半分を強烈な明暗で影に隠す人物表現、そして見る人に直接訴え掛けるような生き生きとした主題解釈―カラヴァッジョはルネサンス以来の美術のさまざまな規範を打ち破り、バロック美術という新時代へ人々を導いた人物といえる。
工房を持たず、直接の弟子がいなかったにもかかわらず、作品の魅力に引き寄せられてヨーロッパ中から集まった画家たちによって彼の画法は継承された。カラヴァジェスキと総称されるその画家たちは、学んだ画法を発展させて各地に波及させたが、その影響はルーベンスやレンブラントなど17世紀の多くの画家たちに及んでいるといわれている。
38歳という若さで没したカラヴァッジョの現存する真筆は60点強といわれる。教会に設置されるなど、移動不可能な作品も多く、11点が集結した本展は日本でも過去最多、世界を見ても有数な内容となっている。彼の革新性の本質を理解する上で重要になるキーワード「風俗」「五感」「静物」「肖像」「光」「斬首」「聖人」などをテーマに展示は構成されており、多くの後継者たちを起こしたカラヴァッジョの魅力の秘密に迫る。
その革新的な表現方法ゆえに、注文主たる教会から作品の受け取りを拒否されることもあったというカラヴァッジョだが、聖書の一場面や登場人物を描いた作品としては、カラヴァッジョの「エマオの晩餐」(1606年、油彩/カンヴァス、ブレラ絵画館)、「洗礼者聖ヨハネ」(1602 年、油彩/カンヴァス、コルシーニ宮国立古典美術館)、「エッケ・ホモ」(1605年頃、油彩/カンヴァス、ストラーダ・ヌオーヴァ美術館ビアンコ宮)、またバルトロメオ・マンフレーディ の「キリストの捕縛」(1613~15年、油彩/カンヴァス、国立西洋美術館)、ヘリット・ファン・ホントホルストの「キリストの降誕」(1620 年ごろ、油彩/カンヴァス、ウフィツィ美術館)、チゴリ(ルドヴィコ・カルディ)の 「エッケ・ホモ」(1607年、油彩/カンヴァス、ピッティ宮パラティーナ美術館)などが展示される。
そして本展で世界初公開となるのが、カラヴァッジョの真筆「法悦のマグダラのマリア」だ。この構図は多くの模作によって以前から知られていたが、2014年、カラヴァッジョ研究の権威であるミーナ・グレゴーリ氏によって本作品が発見され、真筆の第一バージョンであると公表された。白いシャツの襞(ひだ)の力強く長い一筆描き、手首と両手に表れる力強く繊細な陰影といった、カラヴァッジョの作品のみに見られる極めて特徴的な筆跡を見ることができる。
気性が激しく、諍(いさか)いが絶えない波乱に満ちた人生を送ったカラヴァッジョだが、本作品は殺人を犯してローマから逃げ、近郊の町で身を隠していた夏に描かれたものだ。それから4年後に熱病で不慮の死を遂げたとき、彼の荷物には「1枚のマグダラのマリアの絵」が含まれていたと伝えられており、本作品がそれであると考えられている。
「法悦」とは、うっとりするような深い喜び、陶酔という意味だ(本来は、仏法を聞いたり信仰したりすることによって心に喜びを感じることを意味する)。逃亡生活の中で、カラヴァッジョが見いだした喜びとは何であったのか。本展では、当時の裁判記録といった古文書から、芸術だけでなくカラヴァッジョの人生そのものにも焦点が当てられるが、世界初公開となる本作品を通して、ドラマチックな彼の生涯の新たな一面を見ることができるかもしれない。
日伊国交樹立150周年記念「カラヴァッジョ展」は、国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7番7号)の企画展示室で、6月12日(日)まで開催。開館時間は、午前9時半から午後5時半(金曜は午後8時)。入館は閉館の30分前まで。休館日は、月曜(ただし、3月21日、3月28日、5月2日は開館)、3月22日(火)。観覧料は、当日一般1600円、大学生1200円、高校生800円。問い合わせは、ハローダイヤル(03・5777・8600)。詳細は、専用サイト。