「はじまり、美の饗宴 すばらしき大原美術館コレクション」が20日から東京都港区の国立新美術館で始まった。日本が誇る一大美術コレクションを有することで国内はもとより海外からも高く評価される大原美術館。同展では、古代から現代に至るまでの各部門から選りすぐりの作品約150点が展示され、これまで多くの美術愛好家の心を捉え続けてきた大原美術館の膨大なコレクションの全貌を見ることができる。
白壁の土蔵造りの古い家並みが保存されている美しい街・岡山県倉敷市に建つ大原美術館は、キリスト教プロテスタント派の博愛主義的な思想を持ち、社会貢献や福祉の分野にも多大な足跡を残した大実業家・大原孫三郎(1880~1943)によって、西洋美術を日本で初めて本格的に紹介する美術館として1930年に創設された。優れたコレクションの数々は、西洋美術だけでなく、古代オリエント文明の遺品から、現代活躍する若手の作家の作品に至るまで幅広い。同展では、これらのコレクションの礎となった、洋画家・児島虎次郎(1881~1929)の働きにも注目し、85年にわたる大原美術館の収集活動の軌跡も知ることができる。
同展は、国立新美術館という広い空間を生かし、大原美術館のコレクションを七つのテーマに分けて展示している。第1章は「古代への憧憬」で、これまであまり光が当てられてこなかったオリエントや中国古美術の作品群となっている。虎次郎は、孫三郎の支援を受け3度渡欧しているが、その時西洋近代美術だけでなく、古代オリエントの遺品も多く収集し、また中国大陸にも訪れ、古代東洋美術も収集したという。これらの収集品は、大原コレクションの幅の広さを物語るだけでなく、西洋美術の源流をも探ることができる。
第2章は「西洋の近代美術」で、大原美術館の代名詞ともいえるエル・グレコの「受胎告知」が来館者を迎えてくれる。ここでは19世紀半から20世紀前半までの西洋の近代美術がずらりと並ぶ。また、虎次郎の収集品第一号となったアマン・ジャンの「髪」をはじめ、クロード・モネの「水連」、アンリ・マティスの「マティス嬢の肖像」など大原コレクションの礎となった作品の数々を見ることができる。オーギュスト・ルノワールの「泉による女」は、やはり孫三郎の支援で当時パリに留学していた満谷国四郎がルノワール本人を訪ね、直接製作を依頼した作品だ。日本に到着したとき、「新しい絵の具の香りが残っている作品」だったと大原美術館学芸課長の柳沢秀行氏は話す。
第3章は「日本の近代洋画」で、ここで紹介される作品群は、孫三郎の跡を引き継いだ息子の總一郎が勢力的に収集したものだ。重要文化材に指定されている関根正二「信仰の悲しみ」、熊谷守一「陽の死んだ日」、小出楢重「Nの家族」や、藤田嗣治、佐伯祐三、安井曽太郎、梅原龍三郎などの作品から、總一郎が収集に当たっては、西洋の模倣ではなく、日本人ならでは個性と独創的な表現を重視していたことを感じさせる。虎次郎の「和服を着たベルギーの少女」も展示され、和洋のモチーフが混交した同作品は、東西文化の懸け橋を目指す大原美術館の象徴として、同美術館の入り口すぐのところに置かれているのだという。
第4章は「民芸運動ゆかりの作家たち」で、民芸運動に深く関わった陶芸家の作品や、棟方志功の版画や、芹沢銈介の染色が紹介されている。手仕事の美しさをたたえ広めようと始まった民芸運動を、孫三郎も總一郎も理解し、支援していたという。
続く第5章は「戦中期の美術」で、戦中期に活動した5人の作家たちの、戦時色の強い作品に焦点を当てている。パブロ・ピカソの「頭蓋骨のある静物」や、国吉康雄の「飛び上がろうとする頭のない馬」など、戦争の不安や悲しみを表すような絵は、敗戦へと至る厳しい時代の中で静かに耐え続けた大原美術館の姿を物語る。
第6章は「戦後の美術」。戦後大原美術館は、「陶器館(現工芸館)」や、棟方志功や芹沢銈介の展示施設をオープンさせるなど、總一郎のリーダシップのもとに大きな発展を遂げていくことになる。そして、「美術館は生きて成長していくもの」という總一郎の信念のもと、同時代の作家たちの作品、特に新たな価値観を提示する前衛的な作品を積極的にコレクションに加えていったという。同展でも、海外の作家だけでなく、1955年に児島虎次郎賞を授賞した河原温の「黒人兵」や、荒川修作の「ダイヤグラム・オブ・ミーティング」など先鋭的な作品が紹介されている。
開館以来、同時代を生きるアーティストと共に活動してきた大原美術館だが、最後の展示室となる第7章は「21世紀へ」で、2002年度以降、大原家旧別邸を使っての現代作家の展覧会、若手作家を地元倉敷を発信地として紹介するなど、アーティストとの協同活動をさらに活発化させていることを紹介している。新進作家によるコレクションの充実は、同時代に生きる作家に寄り添った活動の成果でもある。
同展の開催を前に行われた開会式の中で大原美術館館長の高階秀爾氏は、時代も地域もジャンルも極めて多様である大原美術館のコレクションを「多(他)文化理解の装置」という言葉で表現した。また、同館理事長の大原謙一郎氏は、「一つの絵には一つの物語があります。瀬戸内の地に生まれ育ってきたコレクションをご覧いただき、お気に入りの作品をぜひ見つけていただき、心に残るものとしてほしい」と語った。
「はじまり、美の饗宴 すばらしき大原美術コレクション」は、国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)で4月4日(月)まで開催。開館時間は、午前10時から午後6時半(金曜は午後8時)。入場は閉館の30分前まで。休館日は火曜。問い合わせは、専用ハローダイヤル(03・5777・8600)。詳細は、展覧会ホームページまで。