4月27日に富坂キリスト教センター(東京都文京区)で開催された日本キリスト教協議会(NCC)ドイツ委員会による公開セミナーで、同委員会在日大韓基督教会、在日韓国人問題研究所所長<RAIK>を務める佐藤信行氏は、震災後の被災地に取り残された外国人の現状と今後の教会としての対策について説明した。
震災における被災地での外国人数は約7万5千人で、被災地の在日外国人は、日本人と結婚して移住してきた中国人、韓国人、フィリピン人女性、戦前から住む在日韓国・朝鮮人とその子孫、主に中国人の研修生・技能実習生などで、地域社会からなかなか可視化されない存在として残されてきた人々であるという。
震災から1年が経過した今日でも、外国人被災者に関する情報は断片的なものでしかなく、これまで在日外国人が被災地5県にわたり、コミュニティを形成することなく地域社会の中で孤立して生活してきたこと、すなわち日本社会において周縁化されてきたことが浮き彫りになったという。
7万5千人の外国人被災者の多くは、仮設住宅や避難地、半壊した自宅で息をひそめて暮らしており、日本語との「言葉の壁」、日本人との「心の壁」、日本社会の「制度の壁」によって、生活再建が困難を極めた現状に取り残されているという。
そのような中で、昨年の9月から仙台にある東北ヘルプキリスト教連合被災支援ネットワークで外国人被災者支援プロジェクトが立ち上げられた。プロジェクト立ち上げ後すぐに、被災地の外国人移住女性の調査を行い、韓国人女性については、韓国教会経由で、フィリピン女性については、カトリック教会経由でどうにか調査を進めることができたものの、最も多い割合を占める中国人女性の調査については、なかなか糸口がつかめなかったという。
また被災した5県に住んでいた在日韓国・朝鮮人の15パーセント近くが65歳以上の高齢者であり、そのほとんどが「無年金」であるという。関西などの各自治体では、無年金の外国人高齢者・障がい者に対して「福祉給付金」として月額一~二万円を給付しているものの、青森県・福島県の給付額はなく、岩手県では1市・1村、宮城県では1市、茨城県では9市・2町が月額三千円~一万円を支給しているだけであるという。佐藤氏は「被災地では、高齢者の自立生活と介護が大きな課題となってきているが、とりわけ在日韓国・朝鮮人の高齢者は、さらに深刻な問題とならざるをえない」と懸念の意を示した。
被災地の外国人支援に関する今後の課題として、佐藤氏は「この一年はいわば緊急支援に忙殺されてきた。具体的に出会った外国人の被災者からの求めに応じて右往左往しながらそれに対応してきた。これからは中長期展望に立った協働課題を定立すべきではないだろうかと切実に思っている」と述べた。
4月から仙台市にある東北ヘルプの事務所の一角に日本人と外国人スタッフによる被災者支援センターが立ち上げられた。外国人被災者支援プロジェクトはNCCの震災対策室(JEDRO)が海外の教会にプロジェクトを立ち上げることを呼びかけ、JEDROを通して資金を支援金を受け取る仕組みになっているという。佐藤氏は「そういう意味では非常に恵まれた環境。これから『企画力』『専門的知識』『資金』がある程度揃った上での議論になるが、現場では一緒に働く協働者が圧倒的に少ない。どんなに企画力があってお金があっても動かせられない状況」であると現状を説明した。
外国人被災者支援プロジェクトでは、在日外国人のための語学学校やコミュニティ形成支援を行って行く予定であるという。これからの課題としては、「とにかく、最終的にはこれまでの震災前の日本人と外国人との関係をまさにそのまま復元するのではなく、日本人と外国人とが共に生きる、そういう関係ができる地域社会にしなければならないと思う。そのためにここ1,2年で頑張らないと元の木阿弥となると思う」と述べた。
佐藤氏は、「震災前の矛盾が震災によってパカッと顕在化した部分もある。それをちゃんと直視して、評論家風に何かを語る前に、とにかくひとつでも、これまでとは違った地域社会を作る働きをして行くしかないと思う」と述べた。外国人被災者支援プロジェクトは最終的に「多民族・多文化共生センター東北(仮称)」の実現をめざしているという。佐藤氏は、「震災前の状況を壊して、それを超えたものを作っていくには、そのくらいのことをしないといけないと感じている。そこまでを目指さなければ、単にかわいそうな人たちを助けてあげましょうというレベルに留まってしまうことになる」と意気込みを伝えた。