世俗化の進む欧州において、キリスト教徒が自身の信条を保って生活するためのフレームワークを策定する必要があることが、欧州キリスト教界内で頻繁に提言されている。このような提言を受け25日、26日の2日間にわたって英ロンドンで「個人主義を超えて」と題した欧州キリスト教指導者らによる会議が行われた。26日、英クリスチャントゥデイが報じた。
同会議では英国内の病院看護婦が、患者のために祈ることも法的に許可されないような驚くべき状況が生じていることが指摘された。英国内では、公的な場所や施設における宗教的行為や宗教的な象徴を示すことが平等法により厳しく規制されるようになっている。
英聖公会ロチェスター教区司祭のナジル・アリ氏は、このような英国社会の著しい世俗化の状況において、キリスト教徒の価値観を保っていく必要があることを警告した。
個人主義の進む欧州各国において、キリスト教の価値観が、個人主義を超えたものとして示されていかなければならないことが会議で議論された。アリ氏は「相互依存の感覚を持たない個人主義は、社会を著しく害します」と警告した。
また現代欧州社会で通念的概念となっている「平等性」や「多様性」についても、元々はキリスト教の価値観にその起源があることに触れ、「これらの概念はキリスト教の価値観を理解するときにのみ、正確に理解できるものです。聖書では人類が皆創造主から創造され、等しく価値があることが記述されています」と述べた。
多様性についても文化多元主義よりも「キリスト教のホスピタリティ」を土台にして理解される必要があるとし、「文化多元主義は、共同体の一部を分離し、孤立化させる危険性がある」と指摘した。
また個人の良心の尊厳についても、最近の英国法では良く守られないようになってしまっていることを指摘した。同氏は、最近の英国法によって裁判沙汰となっているキリスト教徒に対する差別の判例は、「受け入れられないもの」であり、英国法はキリスト教徒の権利を無視していると非難した。アリ氏は「公的な自治を尊重する必要はありますが、良心の尊厳を害する法については議論する必要があるでしょう」と述べた。
公共政策を専門とする執筆家のオス・ギネス博士は、今日の世界が直面している最も大きな課題は、「多様性の中でどのように暮らすか」という事であると指摘した。 同氏によると、グローバルに公共社会が広まる中にあって、キリスト教徒がより「建設的な声」を発信して行く必要性が今日の時代にますます高まっているという。
市民社会のリベラル化の傾向の中にあって、ギネス博士は、「このような状況は強い宗教的確信がある人々にとっては受け入れることができるが、現代のキリスト教徒はこのような社会にあって『より良い決断をしていくための賢い反応』ができずにいることが問題である」と指摘した。
他にも現代キリスト教徒の問題として、あまりにキリスト教が政治的に利用され、分派が進み、個人的な信仰に陥ってしまっていることを指摘し、「キリスト教徒は、共同体全体の益のための活動というより、それぞれが個人の益のための活動をしようとしてしまっています。私たちの権利は、公共社会に住む全ての人の権利が保障されるとき、初めて最も良く保障されるようになるのです。ですから、私たちは公益のために戦っていかなければなりません」と述べた。
公益のために戦っていくにおいて、ただ国の法律にのみ依存しているのではなく、キリスト教の価値観を国家の中で高めていくことが必要であり、「キリスト教の価値観を伝えることを、政治的に利用するために行うのではなく、より広い公益のために伝えていかなければなりません」と警告した。
その上で、現代の欧州キリスト教徒らは、公共生活においてキリスト教価値観を迅速に伝え、関わっていくための準備が良くできていない状態にあることが指摘された。ギネス博士は「市民社会においてイエスを愛する価値観や公共生活において直面している問題について理解できるような教育が必要です。そのことによって世界中すべてのキリスト教徒の模範となるようなモデルを示すことのできるような、思考を形成して行く機会が現代の欧州キリスト教徒の中にあるといえるのではないでしょうか」と述べた。
オランダ前防衛相エルメルト・ヴァン・ミデルクープ氏は「欧州社会においてアンチキリストのムードが高まっている」ことを指摘した。ミデルクープ氏は、欧州での社会政策は、欧州の人々の心や精神をつかむことに失敗し、人々を単に「経済の構成要素」に過ぎないものとして誤って扱ってきてしまったのではないかと指摘、「欧州がキリスト教価値観を中核にした社会を再構成していかなければなりません。欧州大陸には未だ福音を伝えていく必要がある状態にあります。しかしこのような政策は批判を受けやすいです。それでも私たちはより良い欧州を建設していくために、キリスト教の価値観を用いて行く責任があるといえるでしょう」と述べた。
クリスチャンコンサーンのアンドレ・ウィリアムズ氏はキリスト教徒が共に欧州全体のレベルでキリスト教価値観を保つためのフレームワークを策定してくための働きをして行く必要があるとし、「公共的な場における対話において、キリスト教の価値観がいかに伝えられるかという問題について奮闘して行く必要があります」と述べた。
ウィリアムズ氏はさらにキリスト教徒がただキリスト教の価値観を伝えるだけでは不十分であり、キリスト教徒それぞれが、キリスト教徒としての振る舞いを基本とした生活ができている必要性があるのではないかと指摘した。