いつも喜んでいたい、聖霊様に満たされて幸せな私であって、光のようにイエス様の栄光を現したい。そんなふうに願っていても、どうしてか悲しみが心におとずれる。むなしさ、寂しさ、悲しみが・・・。そして心はどんよりと湿り、喜びは影をひそめる。
「私たちの人生では、苦しみの方が圧倒的に多いのではないか」。先日訪問してくれた牧師先生が言ってくれた一言だった。たくさんの人の人生の裏側を長年見、人の人生の苦しみたるやと胸を痛めてきた牧師先生であった。
しかし、苦しみ、悲しみの経験こそが人を癒やしていくのはなぜであろう。まさにイエス様の十字架刑の悲しみによって私たちが癒やされたように。また初代教会の弟子たちの迫害の歴史に、今まさに迫害の中にいる人たちはどれだけ励まされ、力づけられていることだろうか。
苦難の経験はシモクレンの花びらのような深みをもって、その人の人間性を彩る。労苦を知らない人に、労苦の中にいる人は励ませず、病を知らぬ人が、病の中にいる者の慰めにはなれない。
そして、多くの人が共に同じ苦しみにあずかっていることを思うと、どんな悲しみやつらさ、むなしさを抱えていても、聖霊様の光がにじむように心身に広がり、人知では計り知れない癒やしを体験する機会になる。その時に、どんな涙も花のように開花し、夢のように彩られ、祈りとして聖霊様の息吹とともに吹く。
空を見上げ、この空の中に世界中どれほどの人たちの美しい祈りが響いていることかと思いをはせる。神にたく芳しい香りのように、世界中の聖徒らの祈りが天に立ち上ってゆくのが見えるようだ。空が美しいのは、この世界がまだ均衡を保ち、世の終焉を迎えないのは、祈りが響く空のせいではないか。
私たちの人生には、病や試練、計画の挫折や愛の喪失・・・さまざまな苦難がある。しかし苦難にあってこそ、私たちの人間性のふくよかさが増し、祈りが鍛えられ、深められてゆく。
苦難は決してうれしいものではないが、苦難の時ほどイエス様に近づける時もない。イエス様が涙を絞って共に泣いてくださっている・・・その熱い涙を感じて歩んできた人は少なくはないだろう。
私の人生も、決して苦難の少ないものではなかった。それは今もそうである。しかし、だからこそ喜びも深いといえる。人生が痛めつけられ、鞭打たれたからこそ見える色があるように・・・。
これからも決して楽な道のりではないだろう。しかし、だからこそ喜びも共に充満しているといえる。
なぜこんなに苦難ばかり多いのに、主は用いてくださらないのだろうか、などと思うこともない。そのような人は、居るだけで、まなざしだけで、振る舞いだけで、簡単な言葉の一つだけで、その人生の深みが表されているものだ。私もそのような人たちの存在に守られて、今日まで歩んでこられた。
夫もまさにそのような人であった。不器用で、うまい慰めの言葉の一つも考えられない。会話も不得手で、おしゃべりな私ばかりが一人で話し、夫は上手な返しもできない。何事もゆっくりとじっくりと熟考しながら行うために、手際のいい人たちには疎んじられてきたことだろう。
会社に対する、教会に対する、そして人に対する誠実さは愚直とまで言われるほどだ。小さな頃から人とは違ったものの見方やペースを貫いてきたために、踏みつけられてきたことも非常に多いことだろう。人の痛みを深く知り、忍耐強く、人のことを悪く言ったことを聞いたことがほとんどない。そして、このように、病や心の痛みでうずくまっていた私を見つけ、守り抜く決心の上で結婚をしてくれた。
結婚前・・・夕暮れ時に、一緒に桜の林の中を歩いていたとき、夫の歩幅に体格の小さな私はついて行けなかった。すると夫は同じペースで歩くために、手を差し伸べた。その手を握ったときに、夫は言った。「こんなことをしてしまったならば、責任を取らなければいけない」。それが夫のプロポーズであった。
クリスチャンであっても異性関係は乱れやすい。そのような中で中年といわれる年になるまで、女性に対する誠実さを貫いてきたことは責任感の表れであり、決して人を傷つけたり裏切れる人ではないことを証ししているようであった。
夫は、世の中を器用に渡り、出世できるようなタイプではないが、天の御国では、どこまでも小事に忠実であっただけに、どんなに報いを受けるだろうかと思っている。私も御国で、この方の妻であったことをきっと誇りに思うだろう。そして、そんな夫に恥じぬように歩みたいと願っている。
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ところざきりょうこ
1978年生まれ。千葉県在住。2013年、日本ホーリネス教団の教会において信仰を持つ。2018年4月1日イースターに、東埼玉バプテスト教会において、木田浩靖牧師のもとでバプテスマを受ける。結婚を機に、千葉県に移住し、日本バプテスト連盟花野井バプテスト教会に通っている。フェイスブックページ「ところざきりょうこ 祈りの部屋」。※旧姓さとうから、結婚後の姓ところざきに変更いたしました。