フィリピンの神学校に奉職しておりました折に、同僚の教師たちとある休みの日にパグサンハンという観光の名所になっている滝を見に行きました。写真のようにボートに乗って川を上って行くのですが、途中、かなり急流もあり、ボートの漕ぎ手たちは非常に巧みに私たちを運んでくれました。
川の両岸は熱帯雨林で、まだ人の手が入っていない原始的な風景が残っています。漕ぎ手たちを見ているとかなり大変そうで、気の毒な感じがしました。ある所では、漕ぎ手たちはボートを降りて胸まで水に浸かりながら、ボートを岩の上に押し上げて、急流を乗り切っていく場面もありました。
私たちも一緒に降りてボートを押し上げたいと思ったのですが、観光客だからそうさせてもらえませんでした。やっとのことでその川を上り切ると、そこには大きな滝が見上げるような岩肌から流れ落ちていました。
滝つぼはかなり大きな湖のようになっていて、そこを竹で作ったいかだで滝の周りを回るという観光もありましたが、ちょっと私どもは遠慮しました。滝にたどり着くまでにもう十分冒険をしたような感じになっていました。
下りは随分とスムーズに流れるように川下りを楽しむことができました。昼食を取り、私たち一行は再びワゴン車に乗って神学校への帰途につきました。
私たち教師はフィリピン人、米国人、日本人、韓国人がいて、なごやかに笑い話をしながら、ココナッツの値段がいくらかとか、たわいもないおしゃべりをしていました。
そんな時、一人のアメリカ人の教師が言いました。「昔ならこんなことはあり得なかったことですね。フィリピン人、米国人、日本人、韓国人がまるで家族兄弟のように一緒にピクニックに行き、一日を楽しく過ごすことなんて」と。
その言葉を聞いてふとわれに帰りました。戦争中は殺し合いをしていた国同士の者たちであったものが、今こうして本当に家族のように和気あいあいとしていられることの恵みがいかに素晴らしいことであるか。このような平凡なことが、実は大変なことなんだということを思わされたひとときでした。
◇