日本基督教団埼玉地区社会委員会は敗戦から69周年の8月15日、憲法学者である国際基督教大学(ICU)の稲正樹教授(所沢みくに教会会員)を講師に埼玉和光教会で「2014年 平和を求める8・15集会」を開催した。稲教授は85人の参加者に対し「憲法9条で真の平和を実現しよう 安倍政権の進める戦争する国づくりに抗議して」と題して講演した。
稲教授は講演で、昨年の秋から今年の7月に至るまでの一連の動きとして、特定秘密保護法、国家安全保障戦略、新防衛大綱、中期防衛力整備計画(中期防)、日本版の国家安全保障会議(NSC)の設置、武器輸出三原則の撤廃、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定が、69年ぶりに軍事力の自制を解き放とうとしているメッセージを世界に送っていると指摘。その上で、戦争をする国づくり、現在の安倍政権の改憲、軍事大国化の構造の全体像について話した。
稲教授はその内容として、1)特定秘密保護法の本質は何か、2)秘密保護法の立法事実としてのGSOMIA、3)国際協調主義に基づく積極的平和主義の欺瞞、4)改憲問題との関連で—明文改憲による方法、5)自民党「日本国憲法改正草案」(2012年4月)の問題点、6)96条改憲先行戦略の挫折、7)立法改憲の模索、8)現状と今後の展望、という8つの項目について述べた。
そして、「政府による憲法解釈の変更によって、憲法規範の内実を空洞化することは許されない。立憲主義は憲法政治が憲法規範に基づくことを要請している。集団的自衛権に関する政府解釈の変更は、実質的には9条の削除を意味し、立憲主義の否定となる。それを許さない世論と理論と運動の拡大が急務であり、それはまた、特定秘密保護法の廃止を求める世論形成と運動の成功にもつながっていく」と稲教授は述べた。
その上で稲教授は、「『憲法9条で真の平和を実現しよう』ということは、7月1日の閣議決定で終わってしまった、あるいは一段落したということではなくて、問題の始まりである。これからもこういう問題に対する取り組みは長く続いていく。私たちは今後提案されてくるであろうさまざまな法律の改正や新しい法律の制定の動きに対して、これらを批判的に検討し阻止する運動に取り組むということで、その改憲の動きに待ったをかけることができるのではないかというふうに思う」と結んだ。
主催者である日本基督教団埼玉地区社会委員会委員長の本間一秀牧師は集会の案内で、「7月1日自衛隊発足60年の節目に当たる日、安倍晋三内閣は憲法第9条の政府解釈を変更し、集団的自衛権容認を閣議決定しました。2012年の政権発足以来、安倍政権は、96条改憲先行戦略、特定秘密保護法の制定、国家安全保障会議の設置、26防衛大綱の決定、武器輸出三原則の破棄、そして集団的自衛権の行使容認と、とどまることなく暴走を続けています。『安全保障法制整備に関する与党協議会』座長高村正彦自民党副総裁は『憲法9条2項が存在する限り、これ以上のことをやらざるを得なくなったら憲法改正が必要』などと語りました。この講演では、立憲主義を破棄するどのような試みが現在なされつつあるのか、それはどのような理由によるのか、そしてどうすれば亡国の政治を食い止めることができるのかを、皆さまと一緒に考えていきたいと思います」と記していた。
「いま沖縄では辺野古基地の建設をはじめ戦争への礎を造っていこうという動きが止みません」と本間委員長は講演に先立ち開会の挨拶で述べた。「私たちがキリスト者として、またこの地球に生まれ育った者として、どのような想いをもって生きていかなければならないのか、生きていくべきなのかを、私たちがいま問われている時だと思います。今日は稲先生のご講演を通して私たちがなすべきことを深く学んで、そして分かち合いの時として参りたいと願っております」
本間委員長はまた、「8月15日、今から69年前、私たちの国は敗戦の時を迎えました。多くの尊い命が愚かな戦争によって亡くなってまいりました。いま私たちはその苦しみ・悲しみを忘れることなく、私たちが何をなしていくべきかを学ぶときを迎えております。愚かな考えを捨てることができず、戦争への道へと歩もうとするような国、そしてその国を助けようとするような愚かなことをなす政治家たちがおります。戦争の恐ろしさ、それによって苦しむ者たちが年を追うごとに増えていくような愚かなことが繰り返されてきております。またこれからもそのような方向にこの国を導いていこうとするような者たちがおります。どうか主よ、一日も早く、そのような人たちに悔い改めの時が起きますように。何をなすべきかを知る者となりますように。どうか神様、導いてください。今日この時、憲法の研究を進めてこられました国際基督教大学・稲正樹先生をお迎えしての講演をこれからもってまいります。私たちがこの平和憲法をいかにして守っていくべきか、そしてそのために何をなしていくべきか、この日、聞き、学ぶことができますよう、導いてください。何よりも先の戦争で失われた方々、そしてそのご家族・ご遺族の上に豊かな慰めをお与えください。今また止まぬ内乱によって貴い命・幼い命が失われております。どうか主よ、お癒し豊かに注いでください。この世界にキリストの平和が満ち溢れる時が来ますように。これから行われることの全てを守り支えてください。講演にあたります稲正樹先生の上に、そしてそのご家族の上に、豊かな祝福がありますように。終わりに至るまで守り導いてください」などと祈った。
また、参加者は、昨年決議された関東教区「日本基督教団罪責告白」を本間委員長に続いて読みあげて告白し、開会礼拝で『讃美歌21』419番「さあ、共に生きよう」を斉唱した。
その後、本庄教会の飯野利明牧師がマタイによる福音書22章34〜40節を朗読した後、「最も重要な戒め」と題して説教を行った。飯野牧師は、「いま私たちは復活の主キリストから和解の福音・平和の福音を託されています。キリストの十字架において、その復活においてこの世のあらゆる敵意は滅ぼされている。いまこの世界に敵意が満ちていても、この日本の国に敵意が満ちていても、それらの全ての敵意はやがて滅ぼされる。終わりの日に全き平和が、神の平和が神によってもたらされる。私たちがキリストにあるこの和解の福音を、平和の福音をこの国で伝えていきたい、証しをしていきたいと思います」などと語った。
そして飯野牧師は、「どうか敵意に満ちたこの世界で私たちが神のみを神とし、主の十字架によってなされた和解の福音と平和の福音をこの世に証しをする私たちでありますように。私たちはこの国にあって誠に小さな群れでありますけれども、この国であなたから選ばれた者として、あなたから与えられた使命に生きる私たちでありますように。8月15日の朝、私たちは心を込めて主イエス・キリストが証しをしたキリストの平和のために祈ります。この国が基地をなくし、あらゆる敵意と武力とを放棄をする国となりますように。また原子力に依存をしない国となりますように。あなたが聖霊をもって本日の集会を支え導いてくださいますように」などと祈った。