賀川豊彦の世界的名著『ブラザーフッド・エコノミクス(Brotherhood Economics)』の初となる邦訳書『友愛の政治経済学』が、コープ出版から6月15日に発刊される。1936年に賀川がニューヨークのロチェスター大学で行った講演の原稿に編集を加えたもので、出版後わずか数年のうちに17カ国語に翻訳、26カ国で出版されるほどの世界的な注目を集めた。だがこれまでに日本語訳は出ておらず、関係者にとっては待ちに待った出版となった。
今回の出版は、賀川の献身100年記念行事の一環として行われるもの。賀川豊彦記念松沢資料館館長の加山久夫・明治学院大名誉教授と石部公男・聖学院大教授の共訳で、監修は元コープ神戸理事の野尻武敏・神戸大名誉教授が担当している。
同書の内容について加山氏は、「賀川の協同組合思想とそれによる新世界秩序構築への提言とも言えるもの」と語る。賀川は当時の大恐慌からの脱却と戦争回避の道として、国際政治や世界経済をも友愛の精神で包み込む協同組合国家の建設を提唱。共産主義でも資本主義でもない「第3の道」を示した。
加山氏によると、1978年、当時ECの議長であったE・コロンボ(当時のイタリア外相)が日本の国会に招かれた際、事前に国会に宛てたメッセージの中で、「競争的経済は、国際経済の協調と協力を伴ってこそ、賀川豊彦の唱えた『友愛の経済』への方向に進むことが出来るのである」と同書に言及している。加山氏は、当時どれだけの国会関係者が「友愛の経済」について知っていただろうかと話す。
野尻氏は、21世紀の社会の構造において、自由競争と効率の原理が支配する「市場」でもなく、平等と公正の原理に従う「行政」でもない、「人格」と「友愛」の精神に基づく第3の社会セクターとしてのNPOが今後「社会の大きなウェイトを占める」と指摘している。日本では制度の問題でNPOにはなっていないが、世界的にそのNPOの代表的存在として長い歴史を持つのが生活協同組合である。賀川は同書の経済思想の実践として生涯その推進に努めた。
野尻氏は同書について、当時賀川の講演に耳を傾けた米国の聴衆は100万人に上るといわれているのに、「日本だけで知られていないのです」と日本に紹介されずに過ぎた73年間の空白を嘆いた。