米南部のバージニア州ブラックスバーグにあるバージニア工科大学で16日午前、学生寮と教室の2箇所で銃が乱射され、学生・教員32人が死亡し、負傷者が26人に上るという米国史上最悪の銃撃事件が発生した。事件を起こしたと見られる男性容疑者は2箇所目の事件現場である教室内で犯行後に自殺し、17日朝に開かれた捜査当局の発表によれば、同大学で英語を専攻する韓国出身の学生チョ・スンヒ(23)であることがわかった。事件の衝撃は全米中にわたり、教会の指導者らが各地で事件の被害者、家族のために祈るように呼びかけている。
事件が起きた初めの場所は、キャンパス南部に位置し、同大の学生約900人が住む学生寮「ウェスト・アンブラー・ジョンストン」。16日午前7時15分ごろ、同寮で学生の男女2人が撃たれて死亡した。その後警察が呼ばれ、大学は学生にメールで事件を知らせるが、初めの事件発生から約2時間半後の午前9時45分ごろ、キャンパス北部にある教室棟「ノリス・ホール」で行われていた工学部のドイツ語の授業に、拳銃と銃弾で武装した男が侵入して発砲し、学生・教員ら30人が死亡、容疑者も自殺した。
この悲惨な銃撃事件を受け、教会の指導者らは各地で祈りを呼びかけている。全米聖職者協議会(NCC、National Clergy Council)のロブ・シェンク代表は、「犠牲者のために我々ができる最良で、また唯一つのことは、使徒パウロが『慈愛の父、慰めの神』と祈り求めたように、犠牲者のために、また彼らの家族のために祈ることだ」と、この事件のための祈りを求めた。
シェンク代表は教会の指導者や牧師たちに、若者の間でしっかりとした倫理観を育てることに一層の努力するように伝え、「子どもが子どもを殺すとき、悪影響があることは必至だ。いくら法律があろうとも、いくら警察や刑務所があろうとも、殺人をとめることはできない。神を恐れる信仰に基づいた良心だけがそれをできる」と、信仰に基づいた倫理教育の重要性を訴えた。
また、「殺人について命の尊厳や神の律法を教えるとしても、キリスト教の指導者は、罪を犯し、たとえ死んだとしても、その罪に対する責任から逃れることはできないことを若者たちにまず教えなければならない。結局、我々は正しい裁きをなさる神の御前に立つことになるのだ。」と述べた。
ビリー・グラハム伝道協会のフランクリン・グラハム総裁は、「教育の場で米国史上最悪といえる銃乱射事件が起きたニュースを聴き、心が重い」、「悲しいことだが、我々は人が人に対して犯しうる罪について再び思い知らされることになった。事件は結局のところ人間の心の状態を映し出しているものだろう」と事件に対して遺憾の意を表し、同大学にカウンセリングを行なえる宣教師を派遣することも発表した。
一方、ブッシュ米大統領は事件が起きた16日午後に声明を発表し、「学校は安全に学ぶ聖域であるべき」と述べ、30人以上が殺害されるという米史上最悪の銃撃事件が教育の場で起こったことに対して強く非難し、犠牲者と同大に残された人々のために祈っていることを伝え、「我々は犠牲者のことを心にとめている。我々は彼らのために祈り、愛深い神に今も苦しみの中にある人々が癒されることを祈り求める」と述べた。
事件が発生したバージニア州ブラックスバーグにあるグレース・カベナント長老教会では地元の住民とバージニア工科大学の学生が共に、犠牲者とその家族のために、また事件の早期解決のために祈りをささげた。
AP通信によれば、今回の犠牲者32人を出した銃撃事件は、テキサス州で91年に23人が死亡した事件を上回り、犠牲者数で米史上最悪の銃撃事件となった。米国では学校を舞台にした銃撃事件が跡を絶たず、99年4月にコロラド州コロンバイン高校で生徒12人、教員1人が射殺され、犯人の2人の生徒も自殺した事件以降、その影響を受けたと見られる事件が未遂も含めて相次いでいる。
年間で1万人以上が銃を用いた殺人事件の犠牲になっている米国では、昨年4月に「違法銃に反対する市長連合」が組織されるなど、不法な銃の取締りに向けた運動が広がっている。しかし、米国では合衆国憲法で「武器を持つ権利」が保障されており、あくまでも不法な銃の取り締まりまでしか行えず、銃所持そのものを規制する広範な運動には至っていない。