【CJC=東京】イタリア司法当局は、「神の銀行」といわれる、バチカン(ローマ教皇庁)の財政管理組織『宗教事業協会』(IOR、通称バチカン銀行)の資産を押収、エットーレ・ゴティテデスキ総裁ら同行幹部の捜査を始めた。IORが巨額のマネーロンダリング(資金洗浄)を行っていた疑い。
IORは、イタリアの銀行『クレジト・アルティジャーノ』に預けていたものを9月中旬、独フランクフルトの米JPモルガン・チェースなど2行に受取人を明らかにしないまま送金しようとした。送金金額は一方が2000万ユーロ(約23億円)、もう一方が300万ユーロ(約3億4000万円)だった。これをイタリアの中央銀行『イタリア銀行』が司法当局に通報した。イタリア当局は1年以上前、IORとイタリアの銀行からの送金について取り調べを開始した、との報道もある。
ゴティテデスキ総裁らは、イタリアの法律で必要とされている顧客の身元を開示しなかった疑いで捜査を受けている。イタリア国内メディアは、司法当局が押収した同行の資産を3000万ユーロ(約34億円)と報じている。
バチカン国務省は9月21日、IORが資金洗浄防止の国際基準を確実に準拠するため、イタリア銀行や経済協力開発機構(OECD)と協力しており、テロと資金洗浄防止のための対策をすべて講じていると指摘、「検察の捜査について当惑し驚いている」とする声明を発表した。送金は通常の取引であり、総裁を信頼しているし、サポートしていく、と言う。
教皇ベネディクト16世は17日、訪問先の英国で金融危機について「経済活動に関する堅固な倫理規定がなかったため」と説教している。
ゴティテデスキ総裁は、イタリアのカトリック大学で金融倫理を教えており、1年前に業務改革のため、同行総裁に就任した。教皇と同じく倫理を失った現代資本主義を厳しく批判し、タックスヘイブン(租税回避地)規制など銀行の近代化に取り組んでいた。
IORは昨年11月にも、伊最大手銀行『ユニクレジット』のサンピエトロ広場近くの支店経由で、受取人を明らかにしないまま計1億8千万ユーロ(約203億円)を送金していた疑惑が発覚、伊司法当局が捜査していた。同行は長年にわたり顧客の身元を明かさず、他行への送金を代行していたとされる。
IORは1942年に設立され、教皇直属の枢機卿からなる小規模の委員会によって運営されており、財務報告は明らかにされていない。ゴティテデスキ氏の就任までバチカンは20年以上、総裁を変えていなかった。
同行の主要顧客はバチカン当局者と聖職者。長年にわたって顧客の身元を十分明かさずに、顧客の他銀行への送金を代行していたが、2007年にイタリアで厳しい情報開示規則が施行された。バチカンの広報担当者によると、捜査対象になっている送金先の口座名義は依然IORとなっており、顧客名ではない。以前はマフィアとのかかわりも指摘され、改革を唱えた教皇ヨハネ・パウロ1世が78年、就任1カ月余で死亡した。82年には主力取引行のイタリアの銀行の不正融資が発覚し頭取が変死。歴代頭取の秘書も自殺したうえ、IORが関与していた疑惑も浮上したことがある。
CNN放送によると、マネーロンダリングの専門家ジェフリー・ロビンソン氏は、IORは「世界でもっとも秘密に包まれた銀行」で、広大な不動産などを収入源とする同行の資金の動きを、外部が把握することはほぼ不可能だと指摘している。
バチカンは、『市国』として独立国家であるため、イタリアの司法当局がどこまで捜査を進められるかは不明。