「天上の音楽-ハートケア・コンサート」(主催:日比野音療研究所)が12日、渋谷区総合文化センター(東京都渋谷区)で開催され、700人を超える人が集まった。
このコンサートは、ゲーム音楽など商業音楽の第一線で活躍してきた日比野則彦(ひびの・のりひこ)さんが、終末期を迎える人や、それを意識し始めた人、介護・ケアをされる人・する人に「いのちの希望」に満ちた音楽を届けたいと、2010年から始めたもの。今回のコンサートは、特に病を抱える人をケアするスタッフや、在宅で介護を担う家族を対象にしている。
まず、米国レーザー医学の専門医である藤本幸弘さんがあいさつし、音楽が脳に与える影響について医学的な観点から説明した。音楽には、自律神経を安定させ、肉体と精神の両面で充実をもたらす作用があると同時に、生演奏の振動も、せせらぎなどの自然音と同様、人に安らぎを与える上で大切であるという。
藤本さんは最先端の治療技術を追いかけていく中で医療の限界を痛感し、「音楽は、人にはどうにもできない、いわば神の領域の問題に対しても、良い時も悪い時も常に寄り添い、決して裏切ることのない親友となってくれる。また、音楽が偉大な主治医となることもあるのです」と音楽の力を語った。旧約聖書にも、「ダビデが傍らで竪琴を奏でると、サウルは心が安まって気分が良くなり、悪霊は彼を離れた」(サムエル上16:23)とあるとおりだ。
黄原亮司さん(東京交響楽団次席チェロ奏者)の演奏によるイントロダクションの後、小さな虫から人間までの「いのち」と「死」について書かれた絵本『いのちの時間』(新教出版社)を高橋圭子さん(子育てサークル「ハンナの会」主宰)が朗読した。また、星野富弘さんの詩画集から6つの詩と林木林作の絵本『あかり』(光村教育図書)も演奏をバックに読まれ、その美しい言葉は会衆の心に深く刻まれた。
朗読と交互して歌われたのは、サックス奏者でもある日比野さんが作詞・作曲した「しあわせのきせき」「千年のいのち」「私の宝物」。それらを妻でソプラノ歌手の日比野愛子さんが、雲間から差し込む光のような優しさで歌い上げた。
スペシャルゲストとして、オランダから来日した精神科医のケン・タナカさんが「いのちの輝き」というテーマで講演した。タナカさんが勤務する病院では、養蜂、木工、農作業、アートなどを通じて、患者一人一人が人間としての輝きを取り戻すのを支援している。同院で注目するのは、患者の病気ではなく、彼らのクリエイティビティー(創造性)と才能の2つ。そのため、来院する患者には、「あなたはここで何かできることはありますか」と聞くのだという。同院には、他の病院には見られない有機農法の畑や木工所、機織り機などがあり、患者のクリエイティビティーと才能がこれらによって引き出されていくと話した。
「大きな変化を起こすことは難しい。でも、小さな一歩が大きな始まりになる。まず、医師が患者を見る目、患者が医師を見る目を変えなければならない。今夜の集いでは、さまざまな才能とクリエイティビティーを目の当たりにする幸運に恵まれている。それはきっと皆さんを支えることになる。次はぜひ他の人も支えてあげてほしい。どうぞ、皆さんの一人一人の才能とクリエイティビティーを生かしてください」
その後、タナカさんの患者が描いた絵がスライドで紹介され、木村弓さんが「いつも何度でも」(「千と千尋の神隠し」主題歌)を披露した。
コンサート後半は、人が生まれてから天国に帰るまで、多くの人に出会い、愛されて人生を過ごすイメージの映像が流れる中、「君は愛されるため生まれた」「ユー・レイズ・ミー・アップ」「アメージング・グレイス」が、ソプラノ、チェロ、ピアノ、サックス、そしてジョイキッズのメンバーも加わり演奏された。
そして、壮大な映像と音楽による感動の余韻が残る中、日比野さんの奏でるサックスの音が静かに流れ、高揚する気持ちは安らぎへと変わっていった。
60代の女性は、「とても心温まるコンサートだった。殺伐した事件が多い中、いのちについて深く考えさせられた。もっと若い人たちにも聴いてほしい」と感想を語った。