三浦綾子原作の映画「母―小林多喜二の母の物語」の舞台あいさつが25日、新宿のケイズシネマで行われた。クリスチャンの山田火砂子監督をはじめ、母セキ役の寺島しのぶさん、多喜二役の塩谷瞬さん、父役の渡辺いっけいさん、特高特高部長役の佐野史郎さんら豪華俳優陣に加え、棒頭役で出演した進藤龍也牧師(埼玉県川口市の「罪人の友」主イエス・キリスト教会)も登壇し、あいさつした。
楽屋では、俳優陣に囲まれて「久しぶりに緊張した」と話す進藤牧師も、伝道することは忘れなかった。塩谷さんがサインに、多喜二の遺した言葉から「闇があるから光がある」と書いたのを受け、進藤牧師が「聖書の中には、たくさん闇と光を語った箇所がある。この言葉はまさに聖書の言葉だ」と言って聖書を開いた。「暗闇に住む民は大きな光を見、死の陰の地に住む者に光が射し込んだ」(マタイ4:16)という箇所を見せられた塩谷さんは、「そうなんですね。知りませんでした」と言って、他の出演者にも聖書を見せたという。
「私は役者でも芸能人でもありません。牧師ですから、こういう反応は嬉しいですね」と進藤牧師。
あいさつでは、初めに山田監督が「2度と戦争を起こしてはいけない。その思いでこの映画を作りました」と話した。
主演の寺島しのぶさんは、「監督の熱量に押し倒され、この監督と一緒に時を過ごしたいと、その一心だった」という。
俳優陣のあいさつが続く中、緊張した面持ちの進藤牧師は、次のように言葉を述べた。
「私は牧師をしています。しかしその前は、ここ新宿でヤクザをしていました。多喜二の母は後にクリスチャンになりました。彼女が本当に伝えたかったのはイエス・キリストではないかと思っています」
最後にマイクを振られた寺島さんはこう語った。「多喜二の母は、どこか山田監督と重なる部分もある。私も、優しく、強く、子ども思いの母でいたい。そして、何かの力によって殺されることのない平和な世の中がいつまでも続くようにと心から思っている」
映画を鑑賞したクリスチャンの観客らは、「非常に良い映画だった。多喜二の死後、イエス様の愛に触れる母セキさんの姿に涙が止まらなかった」と話した。
2月20日は、多喜二が築地警察署内で拷問され、29歳の若さで亡くなった日だ。この日を「多喜二忌」または「多喜二祭」として、全国にある多喜二ゆかりの地などで毎年、講演会やイベントが行われている。映画でも「多喜二祭」に向かう母セキさんの様子が描かれていた。
21日に神奈川県伊勢原市で行われた第16回「神奈川七沢多喜二祭」では、多喜二の遺品から愛用のコートなどが公開され、資料などを中心に当時の写真も展示された。
亡くなる2年前、多喜二は厚木市にある七沢温泉に滞在し、小説「オルグ」を書き上げたが、映画の撮影もこの七沢温泉で一部行われた。今も多喜二が泊まった旅館の離れの建物がそのまま残され、その息遣いが聞こえてきそうだが、地元でもそれを知る人は少ないという。
「七沢多喜二祭」では「オルグ」の朗読や、小樽商科大学(多喜二の母校)の歴史学者、荻野富士夫氏の講演会などがあり、約400席のホールは満席となった。
荻野氏は講演会の最後に、「多喜二が今もし生きていたら、私たちに何を訴えたか。きっと叱咤(しった)激励するに違いない」と話した。
「母―小林多喜二の母の物語」は、全国の映画館や上映会で続々と公開予定。上映日程はホームページで。
■ 映画「母―小林多喜二の母の物語」ダイジェスト版