【CJC=東京】フランス政府が1月に指名した次期駐バチカン大使について、バチカン(ローマ教皇庁)は、4月に入っても無言を続け、メディアの注目の的となっている。
大使を派遣する際には、事前に駐在国から「アグレマン」と呼ばれる同意を得ることが必要。バチカンの場合、同意に必要な期間は通常3~4週間。フランス政府は、次期駐バチカン大使にローラン・ステファニーニ外務省儀典長(54)を1月5日の閣議で任命したが、3カ月以上経過してもバチカンから同意の通知が届いていないという。
フランスとイタリアのメディアは、ローマ教皇庁(バチカン)が、ステファニーニ氏について、同性愛者であることを理由に信任を拒んでいると報じている。同氏はカトリック信者。2001~05年には、駐バチカン大使館に大使に次ぐ職位で勤務していた経歴もある。
しかし、イタリア紙「スタンパ」によると、同性愛者や再婚者らは、カトリックの教義に反するとして駐バチカン大使に就任できないのが通例という。ただイタリア紙「コリエーレ・デラセーラ」は、パリ大司教アンドレ・ヴァン=トロワ枢機卿が、外交的にも意味がある、と受け入れを教皇に進言していると報じた。
バチカン報道事務所のフェデリコ・ロンバルディ担当と駐バチカン仏大使館はともに、メディアの取材に「ノーコメント」としている。
同性婚や離婚はカトリック教会では否定されてきたが、教皇フランシスコは「慈悲深い対応が必要」と寛容な姿勢を示している。ただ、教会内部では現実社会に合わせた柔軟な対応を求める改革派と、教義に厳格な保守派との根強い対立があり、教皇も、2013年の公文書では「結婚とは男女がしっかり結ばれること。それが家族の基盤だ」と教会の従来の考えを堅持する考えを示したが、一方で「神を求める善意の同性愛者を裁くことはできない」とも述べている。
フランスではフランソワ・オランド大統領が就任後の2013年4月に同性婚を認める法律を成立させ、カトリック保守派の反発を招いた経緯がある。イタリア紙「レプブリカ」によると、バチカン内には「大使の指名はオランド氏の挑発」と見る向きもあるという。フランスのカトリック系紙「ラ・クロワ」も関係者の話として、バチカンが今回の人事を「挑発行為」とみなしていると報じた。
オランド大統領は、ステファニーニ氏を「最良の外交官の1人」として任命撤回には応じない構えを見せているという。