世界の辺鄙(へんぴ)なところにある礼拝の場所は、本紙で4月22日に紹介した南大西洋のトリスタン・ダ・クーニャ島の教会や、7月31日の記事で触れた南極の教会、ノルウェーにある世界最北端の教会だけではない。西アジアのグルジア共和国には、ビル10階建てほどの高さがある岩の柱のてっぺんに、チャペルと庵(いおり)がある。
2010年、ニューヨークに拠点を置く英文ニュースサイト「EURASIANET.org」は、「グルジアの修道士、天国への階段を築く」という見出しの記事で、「あるグルジア正教の修道士が、グルジアのイメレティ地域の中央部で40メートルの高さの岩の柱のてっぺんで一生(現世を)逃れる計画を思いついた」などと伝えた。
グルジア政府の資料によると、この岩の柱は、同国の文化遺産保存のための国家計画の対象とされているという。
「グルジア共和国で、ある修道士がカツキーという村の近くにある140フィート(約42.67メートル)の露出した岩のてっぺんにある古いチャペルと庵を再建し、そこで600年前のオスマン・トルコ侵攻以来最初の登塔者となることを望んでいる」
これは、米ワシントン州の映画会社マボロシ・プロダクションズが、2011年にグルジアへの調査旅行を行い、この修道士をテーマに、『The Stylite: a matter of faith(登塔者:信仰の問題)』という題の映画を制作した際の筋書きである。ユーチューブに掲載された動画に、同年9月26日付けでこの映画が一部紹介されている。
その後、同社は昨年1月、スティーブン・リエル監督による米グルジア合作の21分間のドキュメンタリー映画『Upon This Rock』(この岩の上に)を、ロサンゼルス新映画制作者祭(NFMLA)に出品した。ユーチューブで紹介されているその映画の一部の動画がこれである。
『The Stylite』の公式サイトによると、『Upon This Rock』は『The Stylite』の序幕、前段として作られたという。『The Stylite』のフェイスブックを「いいね(Like)」している人は、10月8日現在で3200人を超えている。『The Stylite』は現在も制作が続けられており、その制作費の募金も目標額の67%に達し、公式サイトで国際的に募金を募り、宣伝中だ。
その後、英デイリーメール紙(電子版)は昨年9月、「神へ近づく 131フィートの岩のてっぺんで事実上の独居生活をし、自分の食糧を従者たちに巻き上げ機で引き上げてもらっている修道士に出会おう」という見出しの記事を掲載し、このチャペルと修道士について、複数の写真と共に詳しく報じた。
それによると、報道時59歳のマキシム・カブタラトセ修道士はこの岩の柱の上で暮らしており、もし降りてきたい場合は131フィートのはしごを降りなければならないという。カブタラトセ修道士の従者たちが物資を巻き上げ機で引き上げて供給するのは、カブタラトセ修道士がこの岩の柱を離れるのが週2回のみだからで、彼が修道士になったのは監獄で服役した後だという。
また、英テレグラフ紙もデイリーメール紙の報道の翌日、カブタラトセ修道士を紹介し、20年にわたり岩の柱の上で暮らしていると伝えた。米ハフィントンポスト紙も続けて同月、カブタラトセ修道士についての記事を、写真と動画付きで掲載した。
日本でも昨年11月、フジテレビが「奇跡体験!アンビリーバボー」で、「高さ40m!細長い岩の上に建つ家」として紹介している。映画『The Stylite』も、いつか日本で上映される日が来るのだろうか。