以下は、ウクライナ・ギリシャ・カトリック教会のスヴィトスラフ首位大司教が「各国のカトリック司教協議会や世界の宗教・政治指導者たち、そして善意ある全ての人々へ」宛てた書簡の本紙による日本語訳(非公式)である。同国東部の紛争と教会の実態が詳述されている。
各国のカトリック司教協議会へ
世界の宗教・政治指導者たちへ
善意ある全ての人々へ
9カ月間、ウクライナ人は脱ソビエト期の恐怖から自由と神から与えられた尊厳へという困難な巡礼をしてきました。20世紀の世界大戦や、茶色と赤の全体主義、そして大虐殺によって傷つけられ、彼らは公正な社会と民主的でヨーロッパ的な将来を求めています。平静さと忍耐、そして人間の大きな犠牲をもって、彼らは2月にヴィクトル・ヤヌコーヴィッチの暴虐な体制に打ち勝ったのです。この道義的勝利は3月にロシアによるクリミアの領域併合という報いを受けました。いま、何カ月もの間この国は外国の支援を受けたドネツク及びルハンスク地域の不安定化・分離主義及びテロリストの活動に耐えています。一言で言えば戦争です。悲劇的なことに、マレーシア航空17便の犯罪的な撃墜で明らかになったように、ウクライナの試練は地球社会にも影響を及ぼしています。
ウクライナの諸教会や宗教団体はヤヌコーヴィッチ政権の暴力やクリミアの併合、そしてこの国の分断に対して共に立ち向かいました。独立広場では何カ月も、毎日、そして夜は毎時、祈りを共にして、彼らは公民権の尊重や非暴力、この国の一致、そして対話を主張しました。この市民的でエキュメニカルかつ宗教間の調和と協力は、ウクライナの道義的感化と社会的結合の重要な源となってきました。
併合されたクリミアと東部の戦争地帯では、一部の教会や宗教共同体が差別や絶え間なきむき出しの暴力の標的にされてきました。クリミアで最も危険にさらされてきたのはイスラム教徒のタタール人です。タタール人共同体は全体的に毎日危険のうちにあります。その指導者層のうちの一部は国外追放され、祖国から締め出されてしまいました。クリミアにおけるギリシャ及びローマ・カトリックの聖職者たちや、キエフ総主教庁の正教教区、そしてユダヤ人共同体はさまざまな形で脅されてきました。
4月に暴力はウクライナ東部で扇動によって起こされました。ウクライナ当局によると、国際的なジャーナリストや平和監視員たちを含む約1000人が拉致または監禁されました。何十人もの人たちが拷問を受けたり殺されたりしました。ウクライナ政府が開始した反テロ活動は、地元の反逆者たちや国際的な犯罪非行者たちを吸収する外国の侵略に直面しています。その結果、今日、同地域で人口密度が高い都市では1000人を超える犠牲者がおり、50人かあるいはそれ以上の死亡者数が毎日増えており、マレーシア航空17便の298人の犠牲者たちは言うまでもありません。道路や橋、変電所、炭鉱、及び産業設備を含むこれらの都市の経済基盤は破壊され、経済やウクライナ国家の責任となる将来の再建をまひせています。いわゆる分離主義者たちによってこれらの都市の中心部に持ち込まれてしまった戦闘から何十万人もの人々が逃れることを余儀なくされています。
戦争の恐怖のさなか、ウクライナ・ギリシャ及びローマ・カトリックのちっぽけな少数者は、「分離主義者」たちが支配する領域で抑圧を経験しています。3人のカトリック司祭が拉致されました。パウェル・ウィテックとウィクトル・ワソウィッチ(ローマ・カトリック)、ティクホン・クルバカ(ギリシャ・カトリック)です。後者は10日間も拘禁され、彼が必要としていた薬を奪われました。ドネツクのギリシャ・カトリック司教の司教館は強奪され封鎖されてしまい、彼の教区事務所と全ての文書が剥奪されてしまいました。大聖堂の庭は「分離主義者」のロケット砲火でやられてしまい、建物や窓は砲弾の破片で損傷を受けました。司教やほとんど全てのギリシャ・カトリックの司祭たちはドネツク近郊を離れることを余儀なくされました。分離主義体制の武装した代表者たちが教会に入り、至聖所の神聖を汚しました。彼らは司祭たちがとどまって奉仕を行うことを「許可」しましたが、彼らの旅行に制限を課しました。テロリストたちは教区民に危害を与えるぞと脅すことによってその聖職者たちを恐喝しました。
より最近では、8月16日(土)、ドネツクの汚れなきマリア修道会の小さな修道院が差し押さえられ、その神聖を汚されました。その地域社会に寛容かつ謙虚に奉仕し、ドネツクの外部にいる子どもたちの夏の修養会か、または夏のキャンプをしていた修道女たちは、今やその「分離主義者」たちによって使われている彼女たちの家に帰れないのです。
プロテスタントはロシア寄りのテロリスト集団によって標的とされ、もっともゆゆしい暴力に苦しんできました。福音教会「メタモルフォシス」のアレクサンダー・パヴレンコ牧師の2人の息子たちと、その教会の2人の執事であるヴィクトル・ブロダルスキーとヴラディミール・ヴェリチコは、そのテロリストたちによって教会の礼拝から連れ去られ、拷問を受け、そして殺されました。彼らの遺体はスロヴィアンスクの合同墓所から発見されました。
残念なことに、ウクライナ東部で包囲されたギリシャ及びローマ・ウクライナ・カトリック、キエフ総主教庁のウクライナ正教会、そしてプロテスタントは、ロシアの正教会指導層の誇張によってさらに危険にさらされており、それはロシアの政治当局やメディアの宣伝にますます似るようになってきています。
ロシア正教会の最高位でモスクワにおいて発行された最近の文書の中で、それもとりわけ各正教会総主教に宛てた書簡の中で、ギリシャ・カトリックとキエフ総主教庁のウクライナ正教は、失礼にも「東方帰一教会(ユニエイト)」とか「分派たち」と呼ばれ、名誉を毀損されています。彼らはウクライナ東部の軍事紛争について責任があるとされ、その戦闘、とりわけ軍事活動の結果続いている正教の聖職者や信徒に対する暴力を生み出しているとして非難されています。ロシア正教の指導者たちはギリシャ・カトリックや他の信仰告白について中傷的な情報を広げては、自らをロシア正教のための戦士とみなしている分離主義の武装勢力による危険にそれらをさらしているのです。
私たちはこれらの主張や非難を強く拒否します。ウクライナ軍は教派的な存在として構成されているわけではありません。従って、さまざまな教派の従軍聖職者たちが反テロリスト作戦の地帯で奉仕しています。従軍聖職者たちは地元の宗教共同体の生活に干渉することを認められていません。ウクライナ・ギリシャ・カトリック教会の従軍聖職者たちが他の諸教会や宗教団体の会員に対して暴力行為を犯したという非難は真実ではありません。
軍事侵略によってウクライナが今日体験している悲劇は、全ての諸民族、全ての諸宗教、そして全ての社会諸集団にとっての悲劇です。全ての宗教や民族集団の建造物や教会、そして修道院が損傷しあるいは破壊されています。ドネツク州とルハンスク州及びクリミアで司牧奉仕を行う全ての諸宗教の聖職者が苦しみを受け、その一部は自分たち自身の命が危険にさらされています。この地域で殺された2人の正教の司祭たちは、この紛争で殺された1千人以上の非戦闘員の一部であり、彼らの恐ろしい死は彼らの宗教上の信仰とは関連がありません。彼らは偶然に砲撃の犠牲者となったのでした。
私たちは罪のない犠牲者たち全員のために、そしてウクライナの平和のために祈ります。そして私たちの教会は、平和をもたらし、この恐ろしい紛争による悪影響を受けている人たちの苦しみを緩和するためにあらゆることをしています。
ウクライナには世界のキリスト教共同体の効果的な支援と善意ある全ての人々による支援が必要です。メディアで宣伝が蔓延しているという文脈の中で、私たちはあなた方に情報を批判的に評価するよう求めます。私たちには、あなた方の祈り、あなた方の識別力、あなた方の良い言葉と効果的な行いが必要なのです。沈黙と怠惰はさらなる悲劇につながるでしょう。マレーシア航空17便の運命は、もしテロリストの活動が続けることを容認されたらどうなるかを示す事例であります。
ウクライナ・ギリシャ・カトリック教会首位大司教
キエフ・ハールィチ首位大司教
スヴィトスラフ