アメリカ社会の中で、リンチ(私刑)を求めるような憎しみの心が高まっているようだ。
米モジラ財団のCEO、ブレンダン・アイク氏が今月3日、自身が創設の立役者となった同財団のCEO職を辞任することを余儀なくされた。彼の罪とは一体何か?2008年にカリフォルニア州での同性結婚を禁止する州憲法修正案を支持して、1000ドルを寄付したことが問題視されたからだ(関連記事:Firefoxの「モジラ財団」CEOが同性婚問題で辞任)。
どうやら同性愛者の活動家たちは、「共生」という寛容の精神を守る気が全くないらしい。自分たちが同性婚を訴えているときには支持しているようであったが。彼らの目標としている新しい社会的秩序というのは、自分たちの性生活を肯定し、かつ普通で健全なものとして推進し、またそれに疑いを投げかける者は誰であれ不健全とみなすことなのだ。さらに言えば、彼らの目標は、新しい道徳的価値観に疑問を呈したり反論したりする者を、まるで昔のKKK(クー・クラックス・クラン、※1)のような偏見でもって疎外することのようだ。
それは言い過ぎだと思うなら、ブレンダン・アイク氏に対する彼らの魔女狩りのような振る舞いを見ればよい。
(ジョージ・オーウェル(※2)風に言えば)いまや文化的風土がゲイの「思想警察」を支持する方向に傾いているようだが、彼らは温厚そうな仮面を脱ぎ捨て、寄付金リストや嘆願書などの記録をはじめ、アメリカの言論の自由を表すものを、次々に容赦ない勢いであさっているようだ。彼らの目標は、同性婚に反対したことがある者を暴き「ばらす」こと、そして彼らを「扇動家」として非難することだ。こうすることで彼らは、自分たちに反対する者は社会的な嘲笑を受け、職を失うと脅し、反対の声を黙らせようとしている。
モジラ財団のミッチェル・ベイカー会長は、声明を発表したが、この声明こそまさにオーウェルが描いた世界を表している。ベイカー会長はこう述べた。「私たちは、幅広く多様な見解を持つ色々な社員を抱えています。私たちの文化は開放的で、社員にも地域社会にも自分たちの信条や意見を公に述べることを奨励しています」
そうだろうか?ここで約束しているような開放性や言論の自由は、「ある特定の」話題に関する「ある特定の」場所での「ある特定の」社員に限るということではないのか。モジラ財団の開放性には、ブレンダン・アイク氏と彼の見解は明らかに含まれないのだから。このようにして言論の自由と、そして人間の良心は失われていくのだ。犠牲者が一人ずつ消えていく。
新たなマッカーシズムがアメリカ社会の中で起こっている。ゲイの思想警察が、自分たちの性生活に反論したり、異を唱えていると思われる者を誰でも問い正している。「お前は、現在またはこれまでに、同性結婚に反対したことがあるか」と。もし疑いの余地なく否定されない場合は、「ブラックリスト」行きで、社会的、経済的に不愉快な思いをすることになる。
今こそ、本当に自由を愛する、善意ある人達が――異性愛者であろうと、同性愛者であろうと、両性愛者であろうと――立ち上がって、声高く叫ぶべきだ。「もううんざりだ!我々の同胞の良心と言論の自由を踏みにじる者は許さない」と。
※1 クー・クラックス・クラン(Ku Klux Klan=KKK):アメリカの白人至上主義秘密結社。
※2 ジョージ・オーウェル(George Orwell、1903〜1950):英国の作家、ジャーナリスト。代表作の小説『1984年』では、スターリン体制下のソ連を連想させる全体主義国家によって分割統治された近未来世界の恐怖を描いた。
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リチャード・D・ランド(Richard D. Land)
1946年生まれ。米プロテスタント最大教派の南部バプテスト連盟(Southern Baptist Convention)の倫理および宗教の自由委員会(Ethics & Religious Liberty Commission)委員長を1988年から2013年まで務める。米連邦政府の諮問機関である米国際宗教自由委員会(USCIRF=United States Commission on International Religious Freedom)の委員に2001年、当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領から任命され、以後約10年にわたって同委員を務めた。2007年には、客員教授を務めている南部バプテスト神学校がリチャード・ランド文化参加センター(Richard Land Center for Cultural Engagement)を設立。この他、全米放送のラジオ番組「Richard Land Live!」のホストとして2002年から2012年まで出演した。現在、米南部福音主義神学校(Southern Evangelical Seminary)校長、米クリスチャンポスト紙編集長。