ナイジェリアのラゴス市にある3万人の信者を抱えるクライスト・エンバシー教会のカリスマ的牧師クリス・オヤキロメ氏が、「強姦された女性の子どもを生かすなんて聖書のどこにも書かれていない」と主張し、インターネット上の議論に火をつけた。
オヤキロメ氏が3月2日日曜日の礼拝中のQ&Aセッションで発したというこのコメントを、フェイスブックのページに載せたのは、イタリアのナポリにあるクライスト・エンバシー教会だ。
質問は「強姦の結果生まれた赤ん坊を中絶してもよいか?」というもので、オヤキロメ氏は以下のように返答したと伝えられている。
「どんな子どももこの世に力づくで産み落とされてはならないのです。もし女性が強姦された場合は、その赤ん坊を生かすかどうかの判断はその女性に委ねられます。もし自分自身、あるいは身近な人が強姦されたことがないという人は、この考えには同意しないかもしれませんが」
「強姦された女性の子どもを生かすなんて聖書のどこにも書かれていないのです!」
ナイジェリアの日刊紙が運営するポータルサイト「Vanguardngr.com」によれば、オヤキロメ氏のこのコメントには、フェイスブック上で「彼を支持したり、しなかったり、揺れ動く」様々なコメントが寄せられ、注目を集めているという。
この件に関する約200のコメントの中には、聖書は強姦の被害者が妊娠した場合子どもをどうするかについて語っていないという、オヤキロメ氏――彼は普通「クリス牧師」と呼ばれている――に異議を唱えるナイジェリア人からのコメントも複数あった。
「もし本当にクリス牧師がそんな答えをしたのだったら、それは不幸なことだ。聖書は殺人について明確に語っている――中絶はどのように妊娠したかに関係なく殺人だ」と書いたのは、フレッド・オトネ・オロムロさん。
「強姦は非道なことであるけれども、中絶の正当な理由では絶対にありえない。人間的な正当化には気をつけなければ。こういうことをいったん受け入れたら最後、中絶の名において何故殺人を犯してよいのかという人間的な理由がどっと現れるようになると思う」というコメントを付け加えたのは、ヴァレンタインという投稿者。
一方で、スタンリー・チュクウさんのように、オヤキロメ氏の意見に賛成する人もいた。
「それは間違いなく最善の策です。クリス牧師は絶対正しいです。強姦で妊娠した子を生かすのは道徳的に忌むべきことです」とチュクウさんは書いた。
おそらく個人的な経験から語っていると思われる別の投稿者は、「クリス牧師に全面的に賛成」と書き、「強姦されたことがないなら、口を慎め」と付け加えた。
聖書は具体的に堕胎――妊娠の意図的な中絶――の問題を扱ってはいないが、クリスチャン(ナイジェリア人口の40パーセントを占める)は、しばしばエレミア書1章5節、詩篇139章13〜16節、出エジプト記21章22〜25節などの箇所を引用し、たとえ強姦の場合であっても中絶してはならないと主張する。
また、ナイジェリアの1億6千800万人の人口のうち、カトリック信者は約1900万人に上るが、カトリック教会もまたエレミア書1章5節、詩篇139章15節などの箇所を引用して、いかなる場合に命を宿すことになったとしても中絶は「道徳的悪」とする教義の根拠としている。
WIN/ギャラップ・インターナショナルの「信仰および無信仰指標」によると、ナイジェリアは2番目に宗教心の厚い国であるが、中絶はその母親の健康が脅かされている場合に限り合法であるとしている。一方、ガットマッシャー・インスティテュートは2004年、アメリカでの中絶のうち強姦が理由とされるものは1パーセントだと報告しているが、2008年の調査によるとナイジェリアでは毎年少なくとも76万件の中絶が行われ、そのほとんどは違法なものであり、何千という女性がそのため命を落としているという。
リーダーシップ・ネットワークによればアフリカで10番目に大きい教会であるクライスト・エンバシー教会を率いるオヤキロメ氏は、その成功に関する教えや信仰による癒しという主張のため、物議をかもしてきた。ジャーナリストで作家のJ・リー・グレイディ氏は2012年の記事で、彼を「偽預言者」や「いかさま師」に例えた。グレイディ氏は、オヤキロメ氏の「カルト」的な慣習やグノーシス主義的な「新・天地創造」神学、ナイジェリア人牧師で自称預言者というT・B・ジョシュア氏――彼もまた人気でありながら物議をかもしている人物である――との親交などを取り上げている。
グレイディ氏によれば、オヤキロメ氏は既にアメリカでも16の教会を率い、主にダラス、ヒューストン、ワシントンDC、アトランタなどの都市で、アフリカ系移民を惹きつけている。彼は(ナイジェリア人が多く住む)イギリスでは39、カナダでは18の教会を率い、彼の日々の信仰生活についての本『Rhapsody of Realities』は70カ国語に訳されているという。