北朝鮮の金正日総書記が19日、死去していたことが明らかになったことを受け、北朝鮮に関連するアドボカシー団体は、同国の今後の情勢を注視している。複数の団体の調査報告によると、北朝鮮では今後もキリスト教徒への迫害が継続すると見られるという。一方で金総書記から政権が移行する過程において、同共産主義国が政治的、精神的両方の面でリバイバルを起こす可能性もあるとの希望も伝えられている。
迫害監視団体オープン・ドアーズシニア・コミュニケーションズ・スペシャリストのポール・エスタブルックス氏は米クリスチャンポスト(CP)に対し、北朝鮮国内外で北朝鮮政権の今後の動きを注視する情報について伝えた。エスタブルックス氏はCPに対し「北朝鮮国民は金正日総書記が死亡したことについてあまり楽観的な見方をしていません。今後も世襲制で共産主義国の体制が続くと懸念しています」と述べた。
北朝鮮次期政権は、後継者で三男の金正恩(キム・ジョンウン)氏に権力が継承される見通しである。金正恩氏に関してはその生涯の詳細があまり知らされていない。年齢は20代後半であるとされているが、実年齢は明らかではない。次期政権後継において、金正恩氏は国際的な支援や指導者としての訓練を受けていないのではないかと懸念されているという。
エスタブルック氏は、金正恩氏が政権を引き継ぐ際に、指導力不足に起因する問題として、「もし彼に本当に政権が引き継がれるかどうか、彼が何か北朝鮮政権に変化をもたらすことができるかどうかは定かではありません。しかし変化が生じることが事を改善し、社会を良くするという希望は常にあります」と述べている。
また金正恩氏の政治的立場、宗教的立場についても明らかではなく、「彼についてはあまりよくわかっていません。宗教的自由に対して彼がどのような対応を示すかについても定かではなく、正直彼に関しては謎に包まれています。今後彼の立場について引き続き情報が得られるようにして行こうと思っていますし、そのなかに希望的なものが含まれていることを望んでいます」と述べた。
オープンドアーズはこの9年間、北朝鮮をもっともキリスト教を迫害している国として注視してきた。オープンドアーズによると、北朝鮮に存在する5万人から7万人のキリスト教徒が現在強制労働収容所に収容されており、収容された人々は深刻な飢餓に直面しているという。
北朝鮮では、キリスト教の信仰をもつことでその家族3代にわたって迫害されると言われてきた。エスタブルックス氏は北朝鮮におけるキリスト教の迫害は「魔女狩り」のようなもので、同国のキリスト教徒は「当局に導かれた政府主導の迫害に直面しています。それでも北朝鮮では今日でもクリスチャンになろうとする人々が続出しています」と述べている。
世界キリスト教連帯(CSW)のマービン・トーマス最高責任者(CEO)は、北朝鮮の政権移行自体の中に、今後の変革が広まる基盤が見い出せるとし、「北朝鮮が方向性を変え、孤立化の道から逸れ、国民に残虐行為を働くことを止め、世界に窓を開く本当の機会が今訪れています」と述べている。
トーマス氏は北朝鮮国内に蔓延している残虐行為の問題は、キリスト教迫害という問題に留まらず、基本的人権に関する問題であることを強調した。北朝鮮はこれまで外交関係から孤立し、国内での飢餓状態が蔓延しているにもかかわらず海外からの人道支援を拒絶してきた。北朝鮮は米国を帝国主義の侵略国と見なしており、同国の学生たちは幼少時から米国の思想を拒否するように教え込まれてきた。北朝鮮政府ではキリスト教はアメリカの宗教であると見なしており、米朝関係は長い間外交に亀裂が入ったままであった。そのため海外から支援を受けることのできない北朝鮮一般国民の生活水準が貧しいままとなっていた。さらに北朝鮮では金日成、金正日父子以外を崇拝することは許可されておらず、宗教の自由という観点では全く認められていない状況にある。
エスタブルックス氏も北朝鮮政権に今後変化が生じる希望があることについては同意しており、同国高官らが国内の人権の迫害状況について今後どう対応していくか注視して行く必要があるとし、「北朝鮮には同国の内政に詳しい人々が存在しています。しかし彼らが国外とのアクセスが遮断された状況にあることが問題となっています。しかし北朝鮮政府で働いていた人々のうちの一部は、海外へのアクセス手段を得ており、彼らを通して真実が国内に伝えられる道が残されています。しかし一方で北朝鮮の国民のうち98パーセントは全体コントロールの情報統制下に置かれており、政権移行過程においても海外の情報にアクセスできる手段がない状態にあります」と述べた。
北朝鮮から脱国してきた難民のひとりがオープンドアーズに打ち明けた情報によると、同国国民は、故金正日総書記を崇拝するように強制されているという。同国国営メディアでは金正日総書記の死を「心から追悼する国民の映像」および、「金正日総書記へ心からの哀悼の意を告げるメッセージを流す」ことで、情報を統制していることが伺えるという。
サマリタンズパース代表のフランクリン・グラハム氏は、金正日総書記の死を受け、米国が次期後継者とされている金正恩氏を良く理解し、強い関係を構築できる道を見つけることに期待していると述べている。
グラハム氏は米CPに対し、「私の祈りはオバマ米大統領が北朝鮮新政権指導者と接触し、同国の飢餓と寒さに苦しむ国民に助けの手を差し出すことを伝えてくれることにあります。米政府が北朝鮮国民の生活支援をすることが今後の米朝関係の改善につながっていくでしょう」と述べた。
インターナショナル・クリスチャン・コンサーン(ICC)南アジア地域マネジャーのジョナサン・ラチョ氏は、ウェブサイト上で「北朝鮮は危機的な混乱状態にあります。世界中のクリスチャン、北朝鮮に福音が伝えられるドアが開くように主に祈って行く必要があります。北朝鮮のリバイバルとかつては『東のエルサレム』として知られていた平壌に主の栄光が現れるように、祈ってください」との声明文を発表している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると、北朝鮮国内のキリスト教徒数は40万人以上であるが、同国人口の2パーセント以下でしかなく、少数派であるという。