今後の日本社会には、新たな価値が生まれる AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ロボットなどの先端技術がより多く実装されると予想されています。
民主主義を土台とし、誰もが自由に考え、発言し、行動できる日本社会のはずですから、国民が主体的に、善意を持ってこれらの新しい技術を取り入れるなら、より住みやすい社会を実現できる可能性があるのは確かです。
根拠のブラックボックス化と思考停止に陥る危険
ところが、これら先端技術を通した情報は、あまりに多くのデータを短時間に処理して得られるため、なぜそのような情報に至ったのか、ほとんどの人には根拠の分からない状況が現実に存在します。
また、データ処理の傾向をある程度理解すると、一部の人たちが悪意によらずとも、処理方法や設定条件などを微妙に変えることで、結果として得られる情報を都合よくコントロールできる可能性が存在します。
そして、それらの根拠の分からない歪んだ情報がいったん社会に受け入れられると、多くの人の思考が停止し、あたかも正しい情報と判断され、社会に拡散していきます。
民主主義の社会では、大多数の人が同じ判断をすると、たとえ根拠が希薄であっても、あるいは間違っていたとしても、マスコミなどを通し、疑う余地のない真実のように広がってしまいます。民主主義の進んだ社会における先端技術の利用には危険が潜んでいるのです。
共感を得るために意図的に操作した苦い思い出
かつて、私が前職のトヨタ自動車に入社した直後、社員教育として、さまざまな異なった業務を体験しました。今から40年以上前ですから、AIという言葉さえ聞き慣れない時代でしたが、実際の実験を行わずに、現実に近いモデルを作り、シミュレーション(PCを用いた模擬実験)によって開発を促進しようとする試みに参加しました。
私は、模擬実験による計算結果と実際の実験結果が同じ傾向を示すようにモデルを組み上げ、設定条件を変更していきました。今よりモデルが単純だったこともあり、短期間で上司を納得させ、自分自身の成果につながる都合の良い計算結果を意図的に得ることができました。その当時は、完璧な仕事をしたつもりになっていました。
その後間もなく、私は研究所に異動し、模擬実験に深く関わることはありませんでした。しかし、経験のない新入社員であっても、多くの人々を共感させる模擬実験の威力と危険性を感じたことが苦い思い出となり、その後の会社生活の中で、計算結果に頼らない道を選んできたように思います。
民主主義が誤った情報を後押しする危険性
近代の民主主義は、政治制度としても理念としても重要視され、多くの国で採用されています。他の政治体制と比べ、相対的に優れているのは間違いないと思います。
しかし、AIを中心とする先端技術が与える情報が広く行き渡り、多くの国民が根拠のない誤った情報をうのみにすると、民主主義は最悪の結果を引き起こしてしまいます。
たとえ、その誤りを指摘し、正しい判断を促す人がいたとしても、民主主義である以上、多くの人の判断がまかり通ってしまいます。民主主義による全体主義が進行してしまいます。
モノづくりに学ぶ対処方法
これらの危険を回避するには、国民の一人一人が深く考え、惑わされないようにすることが大切です。しかし、相手はAIを中心とする先端技術ですから、簡単なことではありません。
今後、さまざまな失敗を経験するのは避けられないでしょう。しかし、失敗が生じたときこそ、的を射た修正を得るチャンスが訪れるはずです。失敗の要因を解析し、現場に則した対策を考える習慣が身に付けば、思考停止に陥る危険はある程度避けられるはずです。
少なくともモノづくりでは、先端技術による模擬実験の結果が、実際の実験結果より優先されることはありません。日本のモノづくりが優れているのは、良いモノを作るため、現場に則した判断が常に優先されてきたからでしょう。日本に受け継がれるモノづくりの姿勢は、今後の日本社会を誤った情報から守る一つの指針になるはずです。
主が正しい道に導いてくださる
いずれにしても、今後、AIを中心とする先端技術による誤った情報との戦いは、激しさを増していくでしょう。私たちの霊的な備えは、常に神様への信仰にあることを改めて確認し、今後の戦いに挑みたいと思います。
主よ あなたの道を私に知らせ あなたの進む道を私に教えてください。あなたの真理に私を導き 教えてください。あなたこそ 私の救いの神 私は あなたを一日中待ち望みます。(詩篇25篇4、5節)
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