2011年から16年まで駐米ローマ教皇庁(バチカン)大使を務めたカトリック教会のカルロ・マリア・ビガノ大司教(83)が6月20日、「教会分裂(シスマ)の罪」のため、バチカンに召喚されたことを自身のX(旧ツイッター、英語)で公表した。
ビガノ大司教は、教皇フランシスコと第2バチカン公会議の正当性について、何年にもわたり公然と疑義を示しており、今回の召喚の結果次第で破門される可能性もある。ビガノ大司教は、「これが超法規的な手続きであることを考えると、判決は既に準備されていると思います」と述べ、バチカン教理省から受け取った2ページの召喚状をXに掲載した。一方、教皇庁に対する抵抗的な態度は崩さず、召喚されたことは「名誉なこと」と述べた。
「この告発の文言そのものが、私がさまざまな演説の中で繰り返し擁護してきた主張を裏付けるものだと思います。私に対する告発が、ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ(教皇フランシスコの本名)の正統性への疑問と第2バチカン公会議の否定に関わるものであることは偶然ではありません。第2バチカン公会議は、ベルゴリオ的な『シノドス的教会』という転移を必要とする、イデオロギー的、神学的、道徳的、典礼的ながんを象徴しているのです」
教皇庁の公式メディア「バチカン・ニュース」(英語)によると、教理省はビガノ大司教に対する手続きについて、その時点で公式の声明を出していない。バチカン国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿は同日、次のように述べた。
「ビガノ大司教は、説明しなければならない幾つかの態度と行動を取りました。私は彼を偉大な働き手、聖座(教皇庁)に非常に忠実な人物、ある意味で模範的な人物として評価していただけに、非常に残念です。彼が教皇大使の職にあったとき、彼は良い仕事をしました。彼に何が起こったのかは分かりません」
ビガノ大司教は近年、教皇フランシスコの退任を繰り返し要求して大きな話題となった。
20年には、カトリック教会内で一部の指導者たちによる陰謀的なグループが、「異端、男色、汚職」を横行させていると非難。当時のドナルド・トランプ米大統領に宛てた書簡では、米国に浸透していた陰謀論の「ディープステート(闇の政府)」にかけた「ディープチャーチ(闇の教会)」という造語を使い、そのグループを「群れを散らし、羊を貪欲なオオカミに食い荒らさせるために引き渡そうとする、傭兵(ようへい)的な不信心者たち」だと強い言葉で批判していた。
また、米カトリック紙「ナショナル・カトリック・レジスター」(英語)によると、ビガノ大司教は18年、01年から06年までワシントン大司教を務めたセオドア・マカリック元枢機卿(93)の性的虐待疑惑を隠蔽(いんぺい)したとして、カトリックの元高官と現高官数十人を非難する11ページにわたる書簡を書いた。ビガノ大司教は非難の矛先を教皇フランシスコに向け、マカリック元枢機卿の性的虐待疑惑を知っていながら制裁を科さなかったとして、「マカリック元枢機卿の虐待を隠蔽した枢機卿や司教たちに良い手本を示すため」退任するよう促していた。
これに対し教皇庁は20年、マカリック元枢機卿の疑惑に関する報告書を発表(関連記事:バチカン、マカリック元枢機卿の性虐待報告書発表 歴代教皇の対応も詳述)。教皇フランシスコの責任を追及するビガノ大司教の告発を否定していた。
なお、マカリック元枢機卿は19年に聖職を剥奪されたが、マサチューセッツ州地裁は昨年、認知能力の低下などのため裁判に耐えられないと結論付け、マカリック元枢機卿に対する訴えを棄却している。
教皇フランシスコは、昨年12月に同性カップルへの「自発的な祝福」を認める宣言「フィドゥチァ・スプリカンス」を発表して以来、ビガノ大司教をはじめとする世界中の保守派の聖職者らから厳しい批判にさらされてきた(関連記事:教皇、同性カップルの祝福を許可 ただし結婚に類似するものはNG 結婚の教理も堅持)。ビガノ大司教は当時、カナダのカトリック保守派メディア「ライフサイトニュース」に寄稿した論説(英語)で、教皇フランシスコとその協力者たちはサタンに仕える僕などと述べ、痛烈に非難していた。
ビガノ大司教に対する召喚状は、出廷または書面による弁明の期限を6月28日としていたが、カトリック系のCNA通信(英語)によると、ビガノ大司教は同日、召喚には応じない考えを示し、教皇フランシスコの正当性などを改めて否定する長文の声明(英語)を公表した。