日本スピリチュアルケア学会(島薗進理事長)は28日、ホームページで「会員の社会発信について」と題する文書を発表した。
文書は、学会の会員で、聖路加(せいるか)国際病院でチャプレンとして患者らにスピリチュアルケアを提供していた男性牧師が、患者の女性に性加害行為をした事件において、牧師を擁護し女性を加害者扱いする内容の声明に、学会の複数の会員が関わっていた問題を受けたもの。文書では、「人権侵害に通じうるこのような社会発信は、スピリチュアルケアを学び、その啓発に努める本学会の会員としてあってはならないこと」とし、牧師による性加害で苦しむ女性をさらに苦しめる結果を招いたとして、深くお詫びするとした。
事件を巡っては、牧師が強制わいせつ容疑で書類送検されたことが2018年9月に報道されると、「A牧師を支えて守る会」が、牧師の無実を訴え、報道に抗議する声明を発表。キリスト教系新聞2紙が、声明全文を引用する形でこれを報じた。
声明は、事件は「真面目に患者に寄り添ってきたチャプレンが無実の罪を着せられたもの」だと主張。また、医療・福祉現場などで患者や利用者が一方的な要求や愛憎などの強い感情をぶつける「援助者への暴力」という文脈の出来事だなどとし、まるで女性を加害者のように扱っていた。そのため女性は今年9月、声明に中心的に関わった加害者とは別の牧師3人と、声明を掲載したキリスト教系新聞2紙を相手取り訴訟を起こした(関連記事:「被害者が声上げると加害者扱い」 聖路加チャプレン事件2次加害訴訟、衆院議員会館で院内集会)。
学会は、牧師の性加害行為を認定した民事訴訟の判決が確定した後の今年2月、女性とオンラインで初めて面談。その際、声明に複数の会員が関わっていたとして、調査を行う意思を表明していた。今回発表した文書によると、同月には臨時委員会を設置し、この件に関して継続して検討してきたという。
一方、女性は8月、代理人弁護士を通じて要望書を送り、2次被害については、1)徹底的な実態調査の実施と調査内容の女性への共有、2)実態調査の結果に基づく謝罪、3)2次被害にも対応可能な規程への改善、というより具体的な内容を示した上で対応を求めていた(関連記事:聖路加チャプレン事件の被害女性、日本基督教団と日本スピリチュアルケア学会に要望書)。
これに対し学会は同月、「A牧師を支えて守る会」に「当学会の会員が少なからず関わってきた」と認めた上で、調査を実施中だと説明。調査結果を踏まえて学会としての対応を行い、規定と会員教育の在り方についても検討を進めると回答していた。また、「加害牧師からの報告が事実関係の多くを隠蔽(いんぺい)したものであったため、学会として適切な対応を取り得なかった時期が続いたという事情がありました」などとも弁明していた。
しかし、今回発表した文書は、調査の実施の有無を含め、調査内容については全く言及せず、既に2月の面談時点で学会側も概ね把握していたとみられる会員の行為について、「事実が確認されました」と述べるのみだった。また、声明については「被害を受けた方に非があるとも読み取れるような文書」とし、「(女性が)2次被害を被ったと感じられるような事態を招いてしまいました」と表現するなど、会員の行為が女性に対する2次加害行為であったと明言することは避けた。
女性によると、学会からは8月の要望書に対する回答以降、一切連絡はなく、調査の内容や結果も知らされていないという。今回の文書の発表についても事前に連絡はなく、女性は「真摯(しんし)な謝罪とはとても思えません」とし、次のように話した。
「文書は、会員の2次加害行為について具体的に触れておらず、非常にぼかしており、これでは一体何をしたのか分かりません。また、調査の内容や結果の開示もせず、会員による2次加害行為の事実認定もしていません。原因は倫理教育の不十分さにあると言って、倫理教育を改善することで、スピリチュアルケアや社会発信の質を高めていくと述べていますが、それで会員の性加害や2次加害を根絶できるのでしょうか。まずは、しっかりとした実態調査と事実認定をしてほしいです。
学会は裁判の判決が確定するまで、被害者の話すら聞こうとしませんでした。2月の面談後には、学会関係者に理解を求めること自体も遮断し、2次被害についての被害者ヒアリングもしていません。一方、日本認知・行動療法学会は先日、会員3人のセクハラを独自に認定し、処分を決めました。同じ人の心を扱う学会で、なぜこれだけ対応が違うのでしょうか。これでは、少なくない会員が関わっていたという2次加害行為を隠蔽(いんぺい)しようとしているとしか思えません。学会の対応は、徹底して被害者に寄り添わず、さらに被害者を追い詰めるものです」
なお、加害者の牧師は既に学会から除名され、所属教団である日本基督教団からも免職されている。