国連の人権担当者が、ウクライナにおける信教の自由、特に歴史的にロシアとつながりのある教会に対する対応に懸念を示し、ロシアによる占領地域を含め、ウクライナ国内の宗教共同体の安全に対する制限や脅威を指摘した。
国連の発表(英語)によると、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のイルゼ・ブランズ・ケリス人権担当事務次長補は17日、ロシアと歴史的につながりのあるモスクワ総主教庁系のウクライナ正教会(UOC)と、2018年に別の2つの正教会が合併して設立された非モスクワ総主教系のウクライナ正教会(OCU)の間の緊張が高まっていることを、国連安全保障理事会で述べた。
ケリス氏は、ロシアがウクライナに対する軍事侵攻を始めた昨年2月以降、この2つの正教会の信者らの間で、口論からエスカレートした身体的暴力事件が10件、脅迫的暴力事件が6件あったことを、OHCHRが確認していると指摘。ウクライナの法執行機関が不適切な対応をしており、UOCの信者を保護できていないと批判した。
ケリス氏はまた、ウクライナと武力紛争状態にある国々と関係のある宗教団体を解散させる可能性のある法案が、ウクライナ議会で審議されていることについても言及(関連記事:ウクライナ最高議会、モスクワ総主教庁系正教会の活動を禁止する法案を第1読会で可決)。法案を含め、こうした措置が必要かつ適切で、国際人権法に沿ったものになるよう求めた。
一方、ウクライナにおけるロシアの占領地域では、ロシアが独自の法律を適用しており、宗教的少数派を規制したり、聖職者に対する拷問を行ったりしていると指摘。全ての当事者が国際人権法を尊重し、信教の自由を保障するよう呼びかけた。
同じく安全保障理事会に出席したロシア正教会のモスクワ総主教庁教会社会・マスメディア関係部副議長のバフタン・キプシゼ氏は、ウクライナ当局がUOCの消滅を狙っていると非難。OCUへの転会を拒否するUOCの信者が権利侵害に直面していると主張した。
安全保障理事会ではその後、討論が行われ、ロシア代表は、ウクライナ議会で審議されている法案は、UOCの活動を完全に禁止するものだと主張。UOCの信者に対する暴力や脅迫を、西側の理事国メンバーが無視していると非難した。
これに対し米国代表は、ロシアが安全保障理事会を利用して偽情報を流し、侵略を正当化していると非難。ロシアの占領地域における宗教的抑圧に焦点を当てる必要性を強調した。
マルタ代表も、ロシアがウクライナに対する侵略から注意をそらそうとしていると非難。フランス代表もこれに同意し、宗教施設への攻撃は戦争犯罪であることを示した安全保障理事会決議第2347号(2017年)を含む国際法を遵守するようロシアに求めた。
ウクライナ代表は、ロシア正教会がロシアの侵略を支持し、ウクライナの領土の占領と併合に加担していると非難。ウクライナ議会で審議されている法案は、侵略のために宗教団体が利用されることに対抗するための措置であると擁護した。