中米ニカラグア政府は23日、カトリック教会の男子修道会であるイエズス会の法的地位を剥奪した。同国では2018年以降、政府とカトリック教会の対立が続いており、政府による弾圧が激しくなっている。政府はイエズス会に対し、動産や不動産の受け渡しを命じており、今後、イエズス会が運営する少なくとも3つの学校が閉鎖させられる可能性がある。
英国を拠点とする「世界キリスト教連帯」(CSW、英語)によると、ニカラグア内務省は23日、マリア・アメリア・コロネル内相が承認した声明(スペイン語)を発表した。声明は、イエズス会が2020年度から22年度にかけて財務報告を行っておらず、20年以降の理事会は有効ではないと批判。非営利団体を規定する第1115号法の第34条と第35条に違反したとしている。
政府はこの1週間前には、イエズス会が運営する中米大学(UCA)の法的地位を剥奪し、銀行口座を凍結している。UCAは、18年の反政府デモで中心的な役割を担った学生リーダー数人の母校であり、UCAのキャンパスはデモの拠点となった。18年のデモ後、カトリック教会が仲裁に入ろうとしたことで、政府はカトリック教会に対する対立姿勢をエスカレートさせた。
ニカラグアでは今年に入って、既に少なくとも26の大学が閉鎖されている。政府はUCAを「テロの中心地」と呼び、国民を裏切っていると批判している。これに対し、イエズス会の中米管区は16日、これらの主張は「虚偽で根拠がない」と反論している。
政府はさらに19日には、首都マナグア近郊のビージャ・エル・カルメンにあるイエズス会士が居住していた建物を接収。警察は司法関係者と共に、イエズス会士らを建物から立ち退かせ、建物は政府の所有だと主張した。
ドイツの国際放送局「ドイチェベレ」(スペイン語版)によると、ニカラグアでは18年4月以降、3500近くの非政府組織が解散させられている。その中には、人権や環境問題、社会福祉、教育に関する活動を行う団体が含まれている。
CSWのアドボカシー責任者であるアンナ・リー・スタングル氏は、ニカラグア政府の行動は憂慮すべきものだとし、国際社会に対し、ダニエル・オルテガ大統領による人権侵害の責任を追及するよう求めている。
米国カトリック司教協議会(USCCB)国際正義平和委員会の中南米担当顧問であるクリストファー・リュングクイスト氏は昨年、米政府の諮問機関である米国際宗教自由委員会(USCIRF)のポッドキャスト(英語)に出演し、ニカラグアの状況について語っている。
リュングクイスト氏は、オルテガ大氏を「神聖なニカラグアのために神から油注がれた」存在として描くイデオロギーが、同国内のカトリックやプロテスタントの団体や個人に対する弾圧の背後にあると指摘。オルテガ政権は「政治的メシアニズム」の下で動いており、オルテガ氏を「国民の救世主、国民の解放者」と見なす運動を行っているという。
反政府デモが広がった18年にニカラグアを訪れたリュングクイスト氏は、オルテガ氏の妻であるロサリオ・ムリージョ副大統領が演説で用いていたレトリックを振り返り、多くの人が彼女こそが、オルテガ氏を支える真の権力者だと信じていると話す。
「彼女の演説は、芝居じみた派手な政治的説教です。彼女は、キリスト教の象徴とニューエイジのオカルト要素を組み合わせているのです」
「彼女は、『神とダニエル(オルテガ氏)』に対するニカラグアの忠誠を主張しています。彼らは、マリア像にサンディニスタ(ニカラグアの左翼政治運動)の服さえ着せるのです」
リュングクイスト氏は、多くの全体主義的なイデオロギーと同様に「サンディニスモは覇権主義」だとし、「ニカラグアの社会全体、特に宗教をその運動のイデオロギー的支配下に置こうとしています」と話す。そのため、カトリック教会のような組織が政府の責任を問うとき、対立は「避けられない」という。また、「政治的メシアは疑われることが好きではないのです」とも指摘した。
迫害監視団体「オープンドアーズ」は、キリスト教徒に対する迫害がひどい50カ国をまとめた「ワールド・ウォッチ・リスト」(英語)で、ニカラグアを世界で50番目に迫害がひどい国としている。同国のカトリック教会は特に標的にされており、政府の弾圧には、教会指導者らに対する誹謗中傷や監視、テロリストとしてのレッテル貼りが含まれていると指摘している。
USCIRFは昨年の報告書(英語)で、オルテガ、ムリージョの両氏による聖職者の逮捕と強制追放について詳述している。USCIRFによると、カトリック教会に対する弾圧には、殺害予告や宗教的物品の窃盗、教会への不法侵入などが含まれている。
今年2月には、ニカラグアの裁判所が、オルテガ大統領の批判者として知られるロランド・アルバレス司教に対し、26年4カ月の禁錮刑と国籍剥奪などを命じている(関連記事:中米ニカラグアのカトリック司教に26年超の禁錮刑、国籍剥奪も 教皇は憂慮表明)。