5月17日に、ミャンマーの難民支援に当たるキリスト教系の人道支援団体「フリー・ビルマ・レンジャー」の活躍を紹介したが、彼らの6年前の活躍を紹介したい。
これは、IS(イスラム国)がまだ猛威を奮っていたイラクで、ISの銃撃をかいくぐりながら100メートル以上を走り、少女を救出した勇敢なキリスト者のレンジャーの話だ。彼は元兵士で、神の言葉こそが、命を懸けて人を救う任務に自分を鼓舞していると語った。
時は2017年6月1日にさかのぼる。「フリー・ビルマ・レンジャー」を運営する元米軍特殊部隊のデイブ・ユーバンクは、モスル西部の最前線でISと戦闘状態にあるイラク人部隊から電話を受けた。ユーバンクの支援団体は、ISの砲撃で窮地に陥った市民を救出するために活動していた。
彼らは、赤ん坊や母親など、あらゆる年齢の人々がISに銃殺された50体以上の遺体の中に、一人の少女が生存しているのを確認した。ところが、少女救出のために飛び出そうものなら、それをめがけてISの銃火器が一斉に火を吹くのは明らかな状況だった。
「現場は凄惨(せいさん)だった」とユーバンクは振り返る。「そこに着くと、ある男が泣きながらやって来たのです。『私の娘が目の前で撃たれて、頭が吹き飛んだんだ!』と。それほど現場は地獄絵図と化していました。そんな中、生存している少女が遺体の山に取り残されていたのです。われわれは祈り、イラク軍と少女を救助する方法について話し合いました。さらに祈り、米軍の友人にも電話をしました」
米軍は、航空戦力でイラク軍をバックアップしていた。そこで米軍は支援機を飛ばし、彼らのいた場所に煙幕弾を投下して煙のカーテンを張ってくれた。それによって、ユーバンクには、150メートルを全力疾走して少女を救うのに十分な時間が与えられ、彼の勇敢な行動によって少女は無事救出されたのだ。
翌日、ユーバンクは再びその場所に戻り、さらに7人を救った。ユーバンクの英雄的な救出劇のビデオと写真はインターネット上で瞬く間に広がり、称賛の的となったが、彼は全ての栄光を神様に帰した。
「あの少女を救出できたのは、神の力だと思います」。ユーバンクは通信社に、そのように語った。「『主よ、助けてください!』と叫んでいました。もしあのとき、私が帰らぬ者となったとしても、妻と子どもたちは、少女を救うために私が命を捨てたのだと理解してくれたでしょう」
彼は、自分の強さと勇気は神の言葉、特にヨハネ福音書15章13節「人が自分の友のためにいのちを捨てること、これよりも大きな愛はだれも持っていません」から来ていると言う。神がこの聖句を初めて語ったのは、彼がISから別の子どもを救おうとしたときだった。
「『殺される』と思ったとき、その聖句が浮かんだのです。怖れはありましたが、私は『主イエスの命令に従う』と腹をくくると、神は私に勇気と力を与えてくれたのです。危険な状況下では、誰しもが恐れます。しかし私たちは、どのように行動したらいいのか常に神に聞きます。大胆に行動するべきか、主に尋ねるのです。そして、行動するための愛も神様に求めましょう。『愛は恐怖を締め出す』のですから」
ユーバンクは、最前線で援助を行う訓練を受けたビルマ出身の衛生兵のチームを率いている。あるジャーナリストがユーバンクに尋ねた。「このような状況に備えて、どのような準備をしてきたのですか?」彼はこう語る。
「私の両親はタイで宣教師をしていました。私はジャングルで育ち、アウトドアの生活は日常でした。その後、特殊部隊に入隊したのですが、これらの経験は全て役に立ちました。戦場で神に信頼し、異文化の人々を理解し、全てのことを感謝します。紛争地帯で生き残って戦うためにです。一見キリスト者らしからぬ、これらのユニークな組み合わせは大きな祝福なのです」
この話で最も注目すべきは、ユーバンクが、妻のカレンと3人の子どもたちと共に(戦場に等しい)イラクに滞在していたことだろう。ユーバンクの家族はそれぞれ分担して、ISから逃れてくる民間人を助けているのだ。「いったい何があなたにそれをさせるのですか」と記者に聞かれたとき、彼はこう答えた。
「私たちは、家族が一つになって全ての決断について祈っています。神は私たちを、安楽でも恐怖でもなく、ご自身が与える機会と計画に導いておられると分かると、勇気と確信が与えられるのです。私たち夫婦は、現実にそこに危険があるにもかかわらず、これが子どもたちに与えられる最高の人生だと信じています。だから私たちは、家族として他の家族に手を差し伸べます。特に妻や子どもたちは、トラウマにおののく女性や子どもたちを慰め、励ましたいのです。彼女たちも、苦しむ人々に手を差し伸べたいのです」
ISの勢力が健在だった2017年、ユーバンクはイラク軍の旅団長であるムスタファ将軍と緊密に協力していた。ユーバンクらが米国に一時帰国をするとき、彼はこう言った。
「あなたたちが米国に帰りたくないのは分かっている。むしろ私たちも、あなたたちにここにいてほしいと思う。しかし、その前に知っておいてほしいのは、あなたたちが私たちを強くしてくれたということです。あなたは私たちを愛し、私たちと危険を共にし、民間人のために食料や医薬品を届けてくれた。先月は自分自身も撃たれたにもかかわらず、私たちの負傷者を治療してくれました。あなたは完全に私たちと共にあります! どうか故郷の人たちに、私たちがあなたたちの助けを必要としていること、そしてこの戦いは、私たちのためだけにではなく、多くの人々のために戦っていることを伝えてください。あなたは、イエスに従うとはどういうことなのかを、私たちに身をもって示してくれたことも知っておいてほしい」
将軍と同じくイスラム教徒の旅団医官がユーバンクのところにやって来て、こう言った。「あなたのために祈ってもいいですか?」ユーバンクは「もちろん!」と答えた。祈り終えると、彼はこう言った。
「イエスの御名によって、この全ての祈りをささげます」。驚いたユーバンクは医官に尋ねた。「イエスの御名で祈っているのかい?」彼は「はい、そうです。その響きが好きなんだ」と答えた。ユーバンクによると、イラク軍の多くのイスラム教徒は神を求めており、神の前で義とされ、神を知ることを切望していたという。
ISが恐ろしい処刑動画を頻繁に発信して世界を恐怖に陥れていたときだが、にもかかわらずイランでも、福音を伝える扉はたくさん開かれていたのだ。
ユーバンクのような神を恐れる者が「殺すため」ではなく「救うため」に戦場を駆けずり回っていたというのは大きな励ましだ。混乱の続くイランだが、人々にキリストにある神の愛が届けられるよう祈っていただきたい。
■ イラクの宗教人口(内戦前統計)
イスラム 98・6%
プロテスタント 0・2%
カトリック 0・04%
正教会 0・3%