パキスタン中部パンジャブ州カネワール地区のモスクで12日、男性がイスラム教の聖典「コーラン」を数ページ燃やした疑いをかけられ、拘束された上で拷問を受け、石打ちの刑で殺害される事件があった。現地警察は16日、主要な容疑者とみられる男ら38人を逮捕した。パキスタン・トゥデイ紙(英語)が報じた。
米政府系放送局「ボイス・オブ・アメリカ」(英語)によると、被害者のムシュタク・アフメドさん(41)には精神疾患があったとされ、暴徒約300人が12日夕、警官からアフメドさんを強引に引き離して殺害したという。アフメドさんは襲撃された際、無実を訴えていたとされている。
モスクの管理人が、同地区ジャングルデラワラ村にあるモスク内で、アフメドさんがコーランを冒瀆(ぼうとく)しているのを目撃したと警察に通報した。警察の広報担当者チャウドリー・イムラン氏によると、警官がモスクに駆け付けた際、アフメドさんはすでに暴徒に取り囲まれていた。警官3人がアフメドさんの身柄を確保しようとしたところ、暴徒が警官に投石し始め、1人が重傷を負い、他の2人も負傷したという。
警察は直ちに増派したが、追って派遣された警官らが到着したのは暴徒がアフメドさんを石打ちにして殺害し、遺体を木につるした後だったという。
カトリック系のアジア・ニュース(英語)によると、数百人の地域住民が13日、アフメドさんの葬儀に参列しモスクで祈りをささげた。
アフメドさんはここ15年間、精神的に不安定で、何日も家を空けることがあったと、アフメドさんが住んでいた村の住民らは記者団に語った。「精神的に病む前は立派なサッカー選手で、性格も良かった」と住民らは話していたという。
パキスタンのイムラン・カーン首相はツイッターでこの事件に触れ、「われわれは、誰であろうと自らの手で刑を行う者を容赦しない。暴徒によるリンチには、法の厳しさをもって対処する」と語った。
パンジャブ州では昨年12月、冒瀆罪の疑いをかけられたスリランカ人男性のプリヤンタ・クマラさんが暴徒に撲殺され、遺体を焼かれる事件が発生している。SNS上に投稿された動画(英語)には、イスラム政党の支持者とされる暴徒が、スポーツ用品工場のマネージャーとして働いていたクマラさんを殴打している様子が映っている。暴徒はその後、クマラさんの遺体に火を付け、燃え上がる遺体の前で自撮りする男数人の姿もあった。
パキスタンの冒瀆法は、パキスタン刑法295条と298条が根拠とされているが、虚偽の告発者や目撃者を罰する規定はなく、個人的な復讐(ふくしゅう)のために頻繁に悪用されている。またイスラム過激派が、キリスト教徒やヒンズー教徒、イスラム教のシーア派やアーマディヤ派など、宗教的少数派を標的にするために悪用している。
キリスト教徒で5児の母親でもあるアーシア・ビビさんも、冒瀆法で大きな犠牲を被った一人だ。ビビさんは冒瀆罪で死刑を宣告され、8年以上勾留されたが、2018年に最高裁で無罪を言い渡された。この事件はパキスタンの冒瀆法に対する世界的な関心を集めたが、ビビさんの無罪判決は過激派グループの怒りに火をつけ、多くの人が街頭で抗議し、最高裁判事らに対し殺害の脅迫が届くなどした(関連記事:逆転無罪のアーシア・ビビさん、家族と再会も命危険 弁護士はすでに出国)。
また14年には、キリスト教徒の夫妻がコーランを破って焼いたとする虚偽の告発により、レンガ窯で焼き殺される事件も発生している(関連記事:クリスチャン夫婦焼殺事件 宗教ではなく金銭的な理由からか パキスタン)。