「茶室の精神 もてなしの空間、神の家族の礼拝」
竣工 1999年12月 所在地 千葉県習志野市津田沼
構造 教会堂 鉄骨造1階建 牧師館 木造2階建
延床面積 265・61㎡(80・3坪)
設計者 西村建築設計事務所(代表・西村晴道)
施工者 前田建設工業株式会社
日本福音ルーテル津田沼教会の前身は、1949年に幼稚園から始まった中山教会です。建築に当たっては、奥に細く突き出た敷地にどのように配置するかが、一番のポイントでした。そこで入り口から心を神に向けるためのほどよい長さが取れ、落ち着いた場所として、奥まった位置に礼拝堂を設け、敷地の形状を生かしました。前面に駐車場を広く取り、牧師館は教会堂と区分して別の建物としました。
幹線道路沿いの高台に、すっとそびえる十字架モニュメントは、遠くからも教会だと分かります。津田沼教会の建物は、茶室の精神を取り入れた「もてなし」の空間をイメージしました。
千利休(せんのりきゅう)は、妻と娘がキリシタンであることや、当時来日していた宣教師たちと会う機会も多く、キリシタン大名高山右近との密接な関係もあることから、彼自身キリシタンではないか、利休という名前もルーク(Luke=聖ルカ)からきているのではという説もあります。
礼拝堂で説教と聖礼典(茶室で茶事)
- コンクリート打ち放しのゲート露地口は外と内の区切りです。そして露地(アプローチ)を通り、中門(ちゅうもん)としての玄関風除室を通り、待合(ロビー)に入ります。亭主の迎え、受付があり、心を整えます。
- 右手に清潔に整えられた雪隠(せっちん=トイレ)を設け、左手に愛餐会が催される場所を設けました。
- 亭主(キリスト)に招かれた神の家族は、貴人口(きにんぐち)ドアから礼拝堂に入ります。礼拝堂は天井の高さ6・5メートルの平天井に、スイスの小さい町で見た教会(※別記参照)の落ち着いた雰囲気を持たせました。正面に床の間としての聖壇を設け、床の間の掛け軸は、友人の西村陽平(造形作家、前日本女子大学教授)作のステンドグラス、十字架、聖壇布を見ます。正面下窓から見える坪庭には水のカーテンのような小さい滝を造り、説教台、聖書台、洗礼盤を置きました。
- キリストとともに神の家族の礼拝(茶事)が始まります。リードオルガンの音色がシンプルな小空間に、柔らかに響きます。
西村陽平(造形作家、前日本女子大学教授)作の十字架、聖壇布、ステンドグラス。
礼拝堂は茶室と共通する空間
茶室は建築として日本独特の造形であり、キリスト教の礼拝堂とは関係ないかと思われるかもしれませんが、茶道とキリスト教との関わりを見ると、幾つかの共通点が見られます。
茶室に入るには、にじり口を通らなければならない。利休考案のにじり口は、「狭き門より入れ」を連想します。世俗と切り離された空間で、己の全てを捨て去り、武士は刀もはずし、ただ亭主と客というだけの関係の中で茶事が執り行われます。
単に茶を飲む行為だけでなく、最も深いところでの人間の相互作用、精神の共有、深遠なる美への応答です。そして、一椀の茶をみんなで回し飲みするのは、最後の晩餐を想起し、聖餐式に通じます。
茶室の特徴は、「もてなす」という茶の湯の文化的要素が組み込まれているところです。特に小間の茶室はその究極の空間と思われます。
誰もいなければ単なる空間ですが、そこに人が入り、動きがあり、核を中心に1つの方向に向かい、儀式が行われるときに、共に交わる聖なる空間に変わります。
E. A. Sovik 'Tea and Sincerity
米国の教会建築の権威であるソーヴィック教授の事務所で学んだときの資料
※別記 スイスの小さい町で見た教会
シュタイン・アム・ライン プロテスタント教会
訪問日 1999年5月2日
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