安保関連法案に反対し廃案を求める立教大学と上智大学の有志が、リレートークで自らの考えを発信しようと、8月29日午後6時から、日本聖公会東京教区の聖アンデレ教会礼拝堂(東京都港区)で、「私たちはなぜ安保法案に反対するのか?―立教・上智有志からの発信―」と題する集会を開いた。171人の参加者には、他のキリスト教系大学からも連帯メッセージが寄せられた。
キリスト教系諸大学の祈りのつながり
開会のあいさつを行った立教大学文学部長の西原廉太教授は、「今回は上智と立教の有志で一緒に何か行動ができないかということで、このような会を持つことができた」と開催の経緯を述べた。西原教授によると、安保法案に反対する両大の賛同人は合わせて2400人になるという。「これは、もう二度と私たちの大事な学生たちを戦地に送らない、武器を取らせない、若い学生たちに誰も殺し、殺させないという願いをもって、いのちと真の平和を願う私たちキリスト教系諸大学の声を振り絞るような祈りのつながりに他ならない」と、日本聖公会の司祭でもある西原教授は語った。
両大有志のリレートークでは、初めに立教大学コミュニティ福祉学部長の浅井春夫教授が、安保法案に反対する理由として、1)コミュニティ福祉学部の基本理念は「いのちの尊厳のために」であり、再び戦地に学生を送らないという決意、2)戦争と福祉は両立しない、3)戦争体制に組み込まれた人間は戦争が終わっても苦しめ続けられる、という3つを挙げた。
そして浅井教授は、古代キリスト教神学者のアウグスティヌス(354〜430)が10数世紀前に残した「希望には二人の娘がいる。一人は怒りであり、もう一人は勇気である」という言葉を引用。「人間としてのまっとうな怒りを持ち続け、勇気を持って発信し、行動していくことが必要ではないか」と語り掛け、「お互い希望をつくるために頑張りたい」と結んだ。
次に、上智大学総合グローバル学部の田中雅子准教授は、「安保法案だけを取り出して反対しているわけではない。特に私は、特定秘密保護法や武器輸出三原則解禁、家内労働者法などの法律が、国家としての日本さえ良ければいいとか、日本の一部の人にはプラスになるというメッセージが強烈にあるのは許せない」と語った。そして、「SEALDs(シールズ=自由と民主主義のための学生緊急行動)の学生や立ち上がっている人たちを見て、教職員という立場でも立ち上がらなければと思った」と付け加えた。
上智大学在学生・卒業生からも声
顔を隠して発言した立教大学大学院生のジャスミンさん(仮名)は、「平和のために行動する立教大生の会」(SPAR)の一員。安保法案に反対する理由として、1)経済的徴兵制につながる、2)自衛隊の位置付けが曖昧(あいまい)で、解決不可能なトラブルを生んでしまう、という2つを挙げた。
上智大学の卒業生でCLC(Christian Life Community:米国にある聖イグナチオの霊的生活を取り入れる信徒の国際団体)のメンバーである信木美穂さんは、在学中に東アフリカのソマリアで内戦が続き、混乱した社会で実際に人々が殺し合い、人命が失われることを知った経験などを語った。また米国留学中には、湾岸戦争があり、留学先で出会ったイラクやクウェート出身の留学生たちの悲しみに触れ、戦争が起きる現実、戦争が人の魂をむしばむ悲劇を目にしたこと、さらに、祖国の内戦で傷つき苦しむカンボジア難民のボーイフレンドと付き合う中米ニカラグア出身の女子留学生との出会いなどを話した。ボランティア団体「きらきら星ネット」で、福島から東京に避難してきた子どもたちを支援している信木さんは、「震災や原発を経験し、戦争は日本にはないと思っていた子どもたちに、戦争の経験を絶対にさせてはいけない」と語った。
経済的徴兵制強化の懸念
立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科の稲葉剛特任准教授は、戦争から帰還した米軍や旧日本軍兵士の精神疾患とホームレス化、入院の長期化について述べるとともに、「自衛隊員が海外で危険にさらされれば、彼らの精神疾患や犯罪、ホームレス化がどんどん深刻化する」と警告した。また、ホームレスに自衛隊出身者が多く、貧困家庭の出身者が自衛隊に入隊している事実を指摘し、経済的条件を利用して兵士を確保する、いわゆる「経済的徴兵制」は日本にもあったとして、自衛隊員の募集が困難になれば防衛省は必ず経済的徴兵制を強化するだろうと述べた。
そして稲葉准教授は、安倍政権が社会保障に非常に冷淡だとして、2013年以降に生活保護制度の利用をしづらくする法改悪や、派遣労働を拡大する法案の動きに言及。現在、日本の相対的貧困率は16・1%、子どもの貧困率は16・3%に上っており、「この現状を改善するには社会保障を充実させ、雇用に対する規制を強化する必要があるが、安倍政権は全く逆だ」と非難した。そして、安倍政権は逆に貧困を拡大させているとし、「経済的徴兵制を進めやすくしようとする疑念を持たせるものだ。そうなる前に、戦争への道を止めたい。それが貧困問題、生活困窮者支援に関わる者の使命だと思って、私は安保法案に反対していきたい」と語った。
JAPAN(Justice for All, Peace for All Nations)を
上智大学神学部長でイエズス会司祭の光延一郎教授は、「安倍政権は、政治のやり方が乱暴で権力を暴力的に使うところを私は危惧している。やりたいことを押し通す。ブレーキがない」と危機感をあらわにした。
光延教授は、1932年の上智大学生靖国神社参拝拒否事件に言及し、それをきっかけに日本のキリスト教界・宗教界が軍国主義に屈服したと述べるとともに、浦上四番崩れで多くの人が迫害を受け殉教した歴史にも言及。「今の時代はキリスト教にとっても危機の時代だ」と述べた。
光延教授はまた、今年2月に日本カトリック司教団が出した平和メッセージで、安保法案、沖縄基地問題に対する危惧が記されていると説明。バチカン公会議が始まってすぐの時に、カトリック信者だったジョン・F・ケネディ米大統領とソ連のニキータ・フルシチョフ書記長が、キューバ危機で調停するための役割を、ヨハネ23世が裏で果たしたことや、ヨハネ・パウロ2世が広島で出した平和アピールにも言及した。
さらに、8月26日に行われた安保法案に反対する学者と法律家の共同行動について、ある新聞記事の見出しに「正義と真理、総結集」とあったが、光延教授は「キリスト教系大学の私たちには、『正義と真理』に加えて愛と自由という言葉もほしい」と述べた。その理由として、ヨハネ23世の公開書簡『地上の平和』に、「基礎としての真理、基準としての正義、動機としての愛、実行力としての自由」と書かれていたことに触れ、「結局、安倍政権には真理・愛・正義・自由・いのち・平和・共生という、非常に人間的な哲学・平和観が全くないのが大きな問題だ。一番大事な人間としての倫理が崩れ落ちていて、それを一番歯がゆく思っている」と語った。
そして、上智大学経済学部の教授だった故山田経三神父が「戦後日本は、JAPAN(Justice for All, Peace for All Nations:全ての人々に正義を、全ての国々に平和を)になれ」と遺言のようにいつも話していたことに触れ、それが実現していくよう力を合わせていきたいと結んだ。(続く)
■ 立教・上智有志が安保法案反対で共同企画:(1)(2)