日本におけるエキュメニカル運動の推進と研究を目的に、昨年2月に発足した「エキュメニカル・ネットワーク」の第1回協議会が、24日と25日の2日間、関西セミナーハウス(京都市)で開催された。日本キリスト教協議会(NCC)や日本基督教団、日本聖公会、在日大韓基督教会、カトリック大阪大司教区社会活動センター(シナピス)、日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)、東北ヘルプ、同志社大学神学部などから約40人が参加した。
エキュメニカル・ネットワーク代表の前島宗甫(むねとし)氏(日本基督教団牧師)は初め、「正直に言って、エキュメニカル運動は停滞している。もう少し元気になってほしい」とあいさつした。1日目の24日に行われた基調講演では、NCC総幹事の網中彰子氏と、韓国基督教教会協議会(NCCK)総務の金英周(キム・ヨンジュ)氏が講演した。
日本におけるエキュメニカル運動の課題と展望
網中氏は「日本におけるエキュメニカル運動の課題と展望」と題して、まずNCCについて現状報告を行った。網中氏によると、現在NCCのフルタイムの職員は1人で、網中氏が務める総幹事も委任であり、諸活動は各委員会がわずかな分配金の中、加盟教団・団体や個人の無償の働きによって支えられているのが現状だという。既にNCCは創設当初のような働きができなくなっていることや、加盟教団からは受洗者の減少により、金銭的・人員的な負担を下げる要望も出ているという厳しい現状を打ち明けた。
NCCは、日本のキリスト教界全てをまとめている団体と思っている人もいるが、「協議会」であり、あらゆる課題に関して全会一致の統一見解というものはない、と網中氏は説明。しかし、個々の現場の活動の中で、さまざまな具体的な活動が生まれてきているとし、もはや日本のエキュメニカル運動はNCCだけが担うものではないが、これからもさまざまな活動を豊かさを持って継続していくだろうと述べた。
最後に網中氏は、今後働きを終える団体や教会の合併・閉鎖などが現実のものとなっているとして、終わりを決断するときの責任者になりたくない人は多いが、「決断を先送りし、見るも無残な終わり方をするよりは、接ぎ木するときの決断のように切り裂かれたところから新しい命が芽吹く方法もあることを期待したい」と語った。その上で、現在教会や教派といった組織ではない場所で、若い人々の中からさまざまなエキュメニカルな活動が生まれていることにも触れ、エキュメニカルの未来には多くの希望が生まれていると語った。
東北アジアの平和のために
一方、金氏は「東北アジアの平和のために」と題して講演を行った。冒頭、1909年に起きた朝鮮の独立運動家・安重根による伊藤博文狙撃事件に関する当時の韓国・中国・日本・米国の反応を紹介し、国による視角の差異によって歴史の捉え方が異なることを語った。その上で、8月14日に発表された安倍晋三首相の戦後70周年談話についての各国からの反応の違いについて紹介した。
談話中の「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」という箇所に対して、米国は歓迎の意を表明したが、中国は慎重な非難をし、韓国は失望感を表し、方向転換を図る変化に対する思いを表明した。
中国の国営・新華社通信は、「誠実性の試験所 不合格」「言語のトリック(言葉遊び)」「村山談話から後退」「皮肉った修辞」などと報じた。
韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は、8月15日の慶祝辞で、「1965年の国交正常化以来、河野談話、村山談話など歴代日本内閣が明らかにしてきた歴史認識は、韓日関係を支えてきた根幹であった。そのような点で、安倍談話は私たちにとっては残念に思われることが少なからずあるのも事実である」と述べた。
韓国の政治評論家は、「安倍談話にはない3つがある。まず初めに主語がなく、2つ目には誠実な謝罪がなく、終わりに戦争はしないという意思がない、過去形の発言を用いた」「中国に対する言及はあるのに、韓国についてはない」「われわれに対している基本的な姿勢が完全に異なる」と批判した。
金氏によると、韓国人は安倍政権以降、日本が歴史認識や教科書改訂問題、従軍慰安婦の否認、日米防衛協力の変更、右翼団体の行動などを見て、日本に軍国主義が復活するのではないかと疑いの眼差しで眺めているという。一方、韓国政府の感情的で未熟な対応は、むしろ日本の右傾化の滋養成分になっているのではないかと心配しているとも語った。
NCCKは、1984年10月の「東北アジアの平和・正義に関する国際会議」を出発点とし、「和解と統一委員会」を常設組織として置き、対北関係と国際協力、平和統一環境造成のための努力を行い、朝鮮基督教徒連盟(KCF)とも交流と協力を続けている。金氏は、韓国政府に対しても批判的な立場を表明してきたと説明し、朝鮮南北の平和統一は、朝鮮だけではなく、東北アジア、そして世界の平和の問題であると語った。
経済構造と格差問題 韓国でも非正規雇用が問題化
金氏はまた、日本と韓国の経済情勢にも触れ、社会主義が没落して資本主義が世界を支配するようになる中、韓国でも経済体制は財閥中心に編成され、非正規雇用が量産されていると語った。韓国の教会は、非正規雇用の問題を社会の最も火急な問題として、市民や社会団体と共に、「非正規的連帯」を結成し、労働問題に積極的に参与しようとしているという。
日本は福島第一原発の事故の後も、原発を再稼動しようとしているが、韓国でも原発を増設しようとしているという。金氏は、これは資本と金銭が全てを支配している現状だと指摘。そして、日本と韓国の教会は、人間らしい教会とはどのような教会か、神の国がどうあるべきかを積極的に論議し、協力と連帯を模索しなければならないと語った。
最後に金氏は、かつて韓国の独裁政権時代の民主化闘争において、日本のキリスト教関係者が手紙や物資で支援してくれたことは、言葉に尽くせないほどの励ましになったと述べ、日本と韓国の教会は、「平和の連帯」「正義の連帯」をつくることができるのではないかと希望を語り、聖書の言葉を引用して講演を締めくくった。
「主は国々の争いを裁き、多くの民を戒められる。彼らは剣を打ち直して鋤(すき)とし、槍(やり)を打ち直して鎌とする。国は国に向かって剣を上げず、もはや戦うことを学ばない」(イザヤ2:4)
(続く:教会はヘイトスピーチに向き合っているか? 国境・教派超えるエキュメニカル運動)
■ エキュメニカル・ネットワーク第1回協議会 :(1)(2)