【CJC=東京】ウイクリフ聖書翻訳協会と関係団体「SIL・インターナショナル」(本部=米テキサス州ダラス)はこの8月、トルコのイスタンブールで、翻訳担当者と外部専門家約30人による会合を開き、イスラム世界の文脈(コンテキスト)の中で、「神の子」とか「父なる神」をどのように表現するのが良いか、検討した。米キリスト教通信WNSが報じた。
神とイエス・キリストをどのように訳出するか、が聖書翻訳に際して最重要課題であることは、昔も今も変わりはない。ウイクリフ協会も、内部だけでなく、支援教会や宣教団体も大きな関心を寄せており、同協会の70年近い歴史の中で、意見対立の結果、離脱者が出たり、支援停止を引き起こしたこともある。
今回のイスタンブール会合も、これまでの深刻な意見対立を踏まえて開かれ、新しい翻訳基準に参加者間の合意が成立した。今回の問題は「神の子」と「父なる神」をイスラム世界の文脈で字義通りに訳出すると、神がマリアと性的関係を持ったという意味を含んでしまうことにあった。「神に愛された1人」というような意訳をする意見も出されていた。
合意に達した結論は「ほとんどの場合、『神の子』を字義通りに訳出することが望ましい」としたものの、字義通りに訳出すると「誤った意味に取られる場合、『息子』という概念を保持している」ならば「等意義の言い換え」を許容する、と言うもの。
これは「神の子」や「父なる神」を字義通りに訳出しないことを、ウイクリフ協会とSILが支持したことを意味する。
ただ新基準は、字義通りでない表現で受け入れられるものについては厳しくした、とウイクリフ米国のルス・ハースマン上席副会長は語った。
1990年代に、翻訳者たちは「神のメシア」や「神のキリスト」などを代替表現する実験を行ってきたが、「『息子』という意味を伝えていなかったので、それらは不完全だったことははっきりしている。限界線を越えている」と言う。
現在、イスラム圏の文脈での訳出を進めている200件の中で、神に関するもので代替表現を採用する例が30から40あるという。その1例が「神の愛する子」を「神に愛された1人」にするもの。これなら神聖な家族関係、社会関係は意味するが、生殖関係の意味はない、とハースマン氏。
それでも、関係者全員が納得したわけではない。すでに翻訳者2家族が脱会したという。逆に保守的な支援団体や教派からの不満も出そうだ。