英国で昨年4月8日に英女王の裁可を受け、同年10月1日に発効された「平等法」が、キリスト教の信仰のために職場で差別的扱いを受けていると感じるキリスト者らを擁護する決断に至ったことを巡り、同国内の無神論者・同性愛者らによる団体からの反感が高まっている。
英国内のキリスト教徒から、職場内で信仰の話をしたり、信仰を象徴するものを身につけていたりすることで、上司から懲戒処分を受けるという不平等な待遇を受けたことに対する訴え、欧州人権裁判所からの要求を受け、英政府「平等法」委員会はキリスト者の信仰の立場を擁護する方向を打ち出した。同委員会は今年秋から3か月間にわたってキリスト者の立場を保護する件に関する公聴会を開く予定であるという。
英国ヒューマニスト協会代表のアンドリュー・コプソン氏は、キリスト教徒が信仰の表現を行ったことで差別された件を欧州人権裁判所まで持ち出した件について「宗教的な聖日やその他宗教的な行事の際に信者が他者を差別するのを許しているのにもかかわらず、公的な職場で信仰の表現をすることを差別されたと訴えるのは不相応な行動である」と非難している。
英同性愛提唱団体「ストーンウォール」代表のベン・サマースキル氏は英政府委員会によるキリスト者の立場を平等法で擁護する方向へ動き出したことについて「深く混乱しています。委員会は公の場でいかなる信仰の表現をも保護する立場を模索するなら、必ず強い反発が生じることを認識しておかなければなりません」と述べている。
平等法委員会は、英裁判所での裁判は、人権に関して判断を下す時あまりに狭い視野でしか判断を下して来なかったのではないかと指摘している。現在欧州人権裁判所にまで持ち込まれた英国内でのキリスト者を差別したとされる訴訟は以下の4件である。
1.ブリティッシュ・エアウェイズのクリスチャン客室乗務員が、機内で十字架のネックレスをつけて勤務することを禁止された件。
2.同性愛者の結婚式の挙行する申し出を断った英国政府職員が懲戒処分を受けた件。
3.恋愛相談を受けるカウンセラーが、同性愛カップルの相談を受けるのを断ったことで解雇された件。
4.看護婦が院内では十字架のネックレスを外すという職務命令を拒否したために休職に追い込まれた件。
さらにキリスト者にとって「平等法」における判断で深刻な問題は、クリスチャン夫妻が、養子を受け入れて養育することを申し出たところ、英政府によって、同夫妻が同性愛を受け入れない聖書に基づいた考え方を固持していることから、「平等法」にふさわしくないとして同夫妻を養子を受け入れるに相応しい人物ではないと判断した件が挙げられる。
この件について、英裁判所裁判官らは、「養子を養育する際に、キリスト者の信仰による権利は制限されなければならない」との判断を下していた。欧州人権条約第9条では、全ての人は思想や宗教の自由が保護されていることが明記されているからである。また信仰による活動をするのは自由であるが、キリスト教としての信仰の宣言ができる範囲は制限されなければならない。それゆえに信教の自由の見地から養子に信仰的行いを教えるのは制限されなければならないとの判断が下されたという。
英法廷弁護士で、養子を育てる両親を弁護する仕事を行っているポール・ダイアモンド氏は、「今英国内ではキリスト教徒に対する偏見が生じるようになってきている」とキリスト教国として発展してきた英国の現状に対する見解を述べた。このキリスト教徒への英国民全体の意識としての偏見がある限り、養子に対する問題への判決に対して上訴することは無意味であると同氏は感じているという。