札幌市で03年12月、乗用車の夫婦が交通事故で負傷し、帝王切開で生まれた女児が11時間後に死亡した事故の判決公判が28日、札幌地裁であった。地裁は、出産後に死亡した胎児は女性の体の一部であるとの判断を下し、業務上過失傷害罪に問われた会社員の男性被告(35)に対し、執行猶予4年(求刑禁固2年)の有罪判決を言い渡した。女児の父親(31)は「致死罪で起訴できなかったのは法曹界の課題」と話している。
胎児の死亡診断書が「母体への衝撃」とされたことなどから、被害者夫婦は、胎児を「人」として扱い「業務上過失致死」で裁くよう求めた。読売新聞によると、検察側は、従来の判例などと同様「胎児は母体の一部」と判断し「過失傷害」で起訴した。
川田宏一裁判官は、「必要な注意義務を怠った事故で、酌量の余地はなく、新しい命の誕生を望んだ夫婦の悲しみは筆舌に尽くしがたい。被告は事件を背負っていくことになる」と、女児の命の重さを認めた。胎児については刑法に基づき、人ではなく母親の体の一部と認定。法曹界の限界を浮き彫りにした。
判決によると、加害者は03年12月27日、札幌市内の道路を時速40〜50キロで走行。緩い左カーブでスリップし、被害者夫婦が乗る対向車に衝突。男性と同乗していた妊娠9か月の妻(30)に骨折などのけがを負わせ、妻の胎盤剥離(はくり)を誘発。搬送先の病院で出産した女児は11時間後に死亡した。
朝日新聞によると、女児の父親は「娘に配慮してくれた判決に不服はない。ただ執行猶予がついたのは納得できない。胎児の人権はどうなるのか。致死罪で起訴できなかったのは法曹界の課題だと思う」と述べた。
刑法上、胎児は母体の一部で「人」とみなさない考え方が主流という。
一方、朝日新聞(29日付)は、交通事故にあった妊婦と、事故直後に生まれた女児にけがを負わせたとして起訴された加害者について、初めて業務上過失傷害罪の成立を認め、禁固2年執行猶予4年(求刑禁固2年)の判決を言い渡した03年鹿児島地裁の判例を紹介している。