2年前に世界で初めてクローン技術を使った胚性幹細胞(ES細胞)の作製に成功した黄禹錫(ファンウソク)・ソウル大教授は24日、研究過程に倫理規定の違反があったことを認め謝罪。研究の責任者を辞任する意向を表明した。
黄教授は「全ての責任は私にある」と述べ、部下の女性研究員2人から卵子の提供を受けたことを認めた。
同教授は、世界初のES細胞バンク「世界幹細胞ハブ」(本部・ソウル大)の責任者に就任し、クローン細胞を使って難病やけがを治す「再生医療」の先駆者として注目されてきた。 日本でも北海道大に研究生として在籍した。
同バンクなど複数の研究機関の代表を辞任。今後は研究に専念する。
AP通信英語版によると、記者会見で黄教授は「この恥ずべきことを社会に発表しなくてはならないことを、心から残念に思う」と述べた。「本来は研究の成功をご報告するべき場であるのに、今日は謝罪しなくてはならないことをお詫びしたい」
卵子提供のビジネス化や脅迫行為を防止する目的で、国際倫理規定では、卵子提供にともなう金銭や利益提供が禁じられている。上司が研究目的で部下に卵子提供を求める行為を禁止する規定も複数存在する。
韓国でも1月に生命倫理ガイドラインが施行され、卵子提供にともなう金銭や利益提供を禁じた。だが、黄教授の研究チームへの卵子提供は施行前だった。
黄教授は獣医で、専門は動物繁殖生理学。ヒトクローン胚(はい)から世界で初めてES細胞をつくることに成功し、ES細胞研究の第一人者として国際的に知られた。研究ではヒト胚細胞を破壊して幹細胞をつくるため、一部のキリスト教医療団体や家庭保護団体は研究に反対している。
研究関係者によると、ES細胞は様々な細胞へ分化する能力と高い増殖能力を持つため、失われた細胞を再生して補う新しい医療「再生医療」の発達が期待されている。パーキンソン病、心筋梗塞、脊椎損傷、白血病、糖尿病、肝臓病など現在治療が困難な病気の治療に応用されるという。
会見では、ES細胞研究の是非は指摘されず、黄教授と研究チームが実験用卵子を得る過程に問題があったことが焦点となった。
昨年5月、英科学誌が、黄教授が部下の女性研究員2人から卵子の提供を受けたとする疑惑を提起、黄教授は「提供の事実はない」と否定していた。
韓国メディア朝鮮日報などによると、会見で黄教授は、この研究員たちに確認した結果、研究員が仮名を使い、同教授の許可なしに卵子採取を行っていたことが当時判明していたと明かした。
だが、英科学誌には事実と異なる回答をした。提供者がプライバシーの保護を要求したほか、研究員が教授の許可なく提供した卵子のために倫理問題へと発展することを恐れたという。
黄教授は「当時、事実を打ち明けていたら、今回のようなことにはならなかったと思うと後悔する」と悔やんだ。
研究に使用された卵子のうち、提供者に報酬を支払って調達されたものが含まれていたことを教授が知ったのは今年10月末になってのことという。卵子採取の委託先である病院の理事長が教授に事情を説明した。
黄教授は当時、与えられた研究と研究の達成に没頭するあまり倫理や法に対する考えが不十分であったと述べた。また倫理と科学が人類の将来を決定する重要な課題であることを再認識したと語った。
黄教授は研究の倫理的課題について以前からキリスト教など宗教関係者と意見交換を重ねていた。