ILOが新しく行った調査によると、発展途上国の産業化が急速に進んだため仕事に関わる事故、健康不全の件数は増え続けている。死亡に至る労働者の数は毎年200万人で、年間2億6800万人が非致命事故により3日間以上就労不能となったほか、1億6000万人が新たに職業病を患っていることが明らかとなった。ILOは以前の調査で職場での事故、健康不全により世界の全GDPの4%が職場復帰や障害欠勤のために失われていると発表していた。
地域ごとに見ると、多くの先進国と最近先進国になった国では職場での事故、健康不全の件数は横ばいになってるが、近年急速に発展しているアジアや注名米の国では増加しているという。ILOは例として中国を挙げ、1998年と2001年の職場での死亡事故の推定件数が7万3500件から9万500件に増加し、復帰に3日以上かかった事故では5600万件から6900万件に増加したことを示した。一方、中南米では雇用増加と建設業界の活性化に伴い、ブラジルとメキシコでの死亡事故は2万9500件から3万9500件に増加したという。
ILO安全労働プログラム責任者のジュッカ・タカラ氏は「このような事態の背景には、新規労働者の多くが農業地帯出身で技能に乏しいことやじゅうぶんな訓練を受けていないことがある」と話す。就労者の大部分は電気機械などによる工業事故の経験が少ないため、危険性に対する認識が低い。産業化が進む国では就労者の教育と事故前・後対策が急務という。
最も一般的な職場での疾患は、有害物質被害によるがん、筋骨格疾患、呼吸器系疾患、難聴、循環器不全、病原体接触による伝染病など。多くの先進国では職場での死亡事故の件数は減少しているが、石綿肺症の件数は急増しており、世界中で年間10万人が命を落としている。一方世界の労働力の半数を占める農業労働者のうち年間7万人は農薬被害により死亡し、最低でも700万人が長期間の疾患を被っている。
ILOとWHOは、労働者の健康増進のため安全で衛生的な就労の実現に向け協力関係を結んだ。WHOは世界各国と提携して70のネットワーク拠点を設置し、労働者の安全衛生のためのグローバル戦略に基づき、事故・健康不全予防方策の導入を支援すると発表した。ネットワークを通して、各国の労働状況を監視・評価し、職場の安全と衛生の保護を訴えていく。また化学的、物理的、人間工学的、社会心理的、生物学的事故に関する情報を広く利用可能にして、最低限の就労健康保全ガイドラインを規定して各国に実施を求める。