国際連合(UN)との協議資格を持つなど国際的影響力を誇るNGO団体「アムネスティ・インターナショナル」(本部・英ロンドン)は先月24日、「女性への暴力撤廃デー」(同25日)に先立って『女性、HIV・エイズ、人権』と題する報告書を発表し、Hエイズは人権に対する脅威となっているほか、特に女性に深刻な影響を与えていると訴えた。
アムネスティは「女性や少女たちへの暴力が、エイズ・ウイルスの蔓延を助長しており、男性と比べ、より多くの若い女性が、今HIV・エイズに感染している」と指摘。「女性の間でHIV・エイズの感染が拡大していることと、性暴力は相互に関係している。各国政府がこの病気の撲滅に真剣に取り組むつもりなら、世界中に広がる女性への暴力というもうひとつの『病気』にも取り組む必要がある」とした。
女性がHIV・エイズ・ウイルスに感染する危険において、暴力は鍵を握る要素となっている。報告書は「少女の最初の性体験は多くの場合強制されたもの。生涯に5人にひとりの女性が強姦や強姦未遂を経験するということが知られている。性器切除、早婚、配偶者が亡くなった女性を親族の別の男性が『相続』するというような伝統的慣習が女性のエイズ・ウイルス感染の危険性を高めている」と説明する。
紛争が深刻な状況の国々では、集団的強姦、性的暴力がHIVの感染を加速させた。特にコンゴでは、医療制度が全く機能していないため、献血血液の8%しか輸血前検査が行われていない。スーダンのダルフール地域でも、女性への暴行が戦争の「武器」として使われているため、同様の結果を招く恐れがある。またダルフールの女性の多くは性器切除を経験しており、感染の危険性はさらに高い。
さらに、強かんの被害者や、HIV・エイズに感染している人びとにとって汚名を着せられ差別されるという問題は深刻だ。地域社会の中で自らが強かんの被害者だと知られ、疎外されることを恐れて、女性たちは強かんされても医療を受けようとしないことが多い。コロンビアで、周囲から汚名を着せられたグループの人びとからアムネスティは様々な証言を受け取っており、その中には、 HIV・エイズに感染しているとされた人びとや、「失踪」や迫害、殺害の被害を受けてきた人びとの証言が含まれている。
「世界の多くの場所で、汚名を着せる行為が、女性を適切な医学的治療から遠ざけ、家族や地域社会から疎外している」とアムネスティは語った。
資産を持つことや遺産に関する権利、あるいは仕事に就き、経済行為を行うことが女性に認められていない場合、女性たちは、男性に依存せざるを得ず、そのため、自らの権利を主張したり、暴力から自らを守るには、極めて弱い立場に置かれてしまう。多くの女性や少女たちは、HIV・エイズから自らを守るための手段を知らされないままに置かれている。例えばエチオピアでは、結婚した若い女性の80%が教育を受けたことがなく、読み書きが出来ない。性や健康、HIV・エイズについて認識を高めることを始めとする教育の機会を確保することが女性や少女たちの権利を保護するための基本だ。
「より安全な性行為のために交渉するというような、自らの人生と、自らの性について女性や少女たちが決定権を行使することを差別や不平等な力関係が阻んでいる。自らにとって最善の利益を効果的に追求することができるよう、女性の権利を保障すべきだ」と、アムネスティは訴えた。
アムネスティは「HIV・エイズの蔓延に取り組むために、各国政府は効果的な対策を実施すべき」として、?HIV・エイズへの認識を高め、抗レトロウイルス薬(anti-retroviral drugs)の投与や適切な医療を受けられるよう保障すること、?女性への暴力を止めさせること、?女性や少女たちの教育の機会を確保し、健康と性に関する情報を提供すること、?女性の経済的権利を保障すること、?HIV・エイズによって汚名を着せ、差別することのないよう、HIV・エイズについての情報を人びとに効果的に伝えるキャンペーンを行うこと---を提案した。
「もし、ある政府が十分な医療措置を保障することができないならば、物質的支援を提供する責任が国際社会にはある」と、アムネスティは付け加えた。
国連合同エイズ計画(UNAIDS)によると、2003年のエイズ感染者は、成人が3,570万人(うち1,700万人が女性)、子どもが210万人と報告されている。エイズ感染者のうち、女性感染者の増加が著しい。若い男性の約1.6倍の若い女性がエイズに感染しているとUNAIDSは報告している。サブ・サハラ・アフリカ地域では、成人感染者の57%が女性であり、HIV陽性反応のある若者の3分の2が女性と少女たちだ。
女性の権利についての女性たちによるキャンペーンが各地で行われている。また、エイズに感染している女性たちも参加する女性による草の根的な活動が近年増加している。
―アムネスティ・インターナショナル日本―r