ここ数年で3百万人が餓死したといわれている北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)。世界で最も無神論的とされているこの国では,金日成政権時代,強制労働により多くの人々が命を失った。しかしこの暗く,抑圧された国に,夜に瞬く星のように,福音の光が輝いていた。
北朝鮮に国籍を持ち,2年前に亡命した一人のクリスチャンが,現在少しずつではあるが成長しつつあるクリスチャン団体を助けるため,迫害や自らの危険を顧みずに帰国した。彼の名は趙(チョウ・ビョンイル)さん。父も子もなく,単身亡命し,そして自ら北朝鮮へと帰国した彼から,驚くべき奇跡と信仰の証しを聞くことができた。
「わたしの祈りは,わたしが処刑されることなく,収容キャンプに送られることです。せめてこの目で現状を見ることさえできれば。」趙さんはこう残して,母国へと向かっていった。成功確率1パーセント以下と言われている亡命を成し遂げた彼は,これからの行先を逃げ出してきたばかりの母国へと定めた。「北朝鮮では,イエス・キリストの福音を聞くことは不可狽ネのです。国全体が強固な壁で囲まれているのです。」
「北朝鮮が自分の選択肢になることは,これまで一度もありませんでした。」10年間の徴兵による軍役の間,実家に帰ることが許されているのはたったの2度。そのうちの1度の帰省で彼が目にしたのは,国内で想像していた以上に悪化していた,壊滅的な飢饉だった。
「人々は道端に力なく横たわり,病人と死体の区別もつきませんでした。空腹のあまり気を失って突然倒れることは日常茶飯事で,両親が祖父母の死体を食べて飢えをしのいでいるというケースも,何度となくこの目で見てきました。」
趙さんが実母の葬式に参加するために実家に戻ったとき,自分の妻と子が既に餓死していたことを知らされた。実母の葬儀中,趙さんは実父が「イエス様のもとで安らかに眠っていますように.....」とつぶやくのを聞いた。
北朝鮮では,およそ1万人に1人の割合でクリスチャンが軍部による取調べを受けているという。葬儀の後,趙さんは取調べの対象となり,中国へと逃げたが,逃亡中に重傷を負った。
何とか国境を越えて中国に辿り着いた趙さんは,現地のクリスチャンたちによって手当てを受け,彼らの介護によって健康を回復。そのとき聞いた彼らの信仰の証を通して,救われた自分の命をキリストに捧げることを決意した。地下教会での2年間にわたる学びの後,趙さんは北朝鮮に戻って福音を述べ伝えることを自ら決意した。
ダニエル書の箇所を引用し,趙さんは自分が“人手によらず切り出された石”(ダニエル2:34-45)となって巨大な像を打ち砕きたいと証しした。
神様の手によって切り出された小さな石が,この世の巨大な権力の象徴である像を打ち砕く。趙さんは自分がこのような存在となれたら,と願う。
「偶像崇拝の王国・北朝鮮は,神様の手によって砕かれるでしょう。」と趙さんは預言する。「神様によって遣わされる小さな一つの石によって,その足は砕かれるのです。わたしはその役割の一部を担いたいのです。誰が知りえるでしょう。ひょっとしたら,ときは既に来ているのかもしれないではないですか。」