戦争下のイラクで昨年三月「人間の盾」となった木村公一牧師(伊都キリスト教会、福岡市)(56)が五月十二日からバグダッドを訪問、十九日に帰国した。イラク日本人人質解放に尽力したイスラム教スンニ派系組織であるイスラム聖職者協会の幹部らと懇談、人質だった二人の感謝状を渡し、同協会の最高指導者アルダリ議長と日本の自衛隊派遣に対する意見書をまとめた。
木村牧師によると、同牧師は十二日に関西国際空港から出国し、アンマンを経由してイラク入りした。バグダッド郊外でハリツ・アルダリ議長と面会。解放された郡山総一郎さんと今井紀明さん直筆の礼状を届けると、同議長との対話では、日本とイラク民衆の友好関係を確認した。木村牧師らはまた、訪問に先駆けて集められた献金と医薬品を医療機関などに寄付した。
木村牧師によると、現地では「私たちは敵ではなくイラク民衆のために来た」というメッセージをアラビア語で訳したものを携帯した。同牧師は出国前、本紙による取材の中でバグダッド再訪の計画に触れ、現地で人質となった場合でも、日本政府による救出は必要ないと話した。
木村牧師がイラクに注目し始めたのは、インドネシアのイスラム教徒の友人から送られた一通の電子メールがきっかけだった。メールは「英米の戦争政策はキリスト教対イスラム教の対立構図を決定的なものとする」という趣旨だった。
木村牧師は、「イラクに住むイスラム教徒の兄弟姉妹が米英のキリスト教徒によって殺されるのを看過できない」という思いから、平和を求める「人間の盾」としてイラク行きを決意した。
木村牧師は、教会にはキリスト者とイスラム教徒の宗教対話の関係に分断を許さない信仰と宣教論が必要だとし、また、日本政府には引き裂かれた世界のために和解の未知を切り開く外交努力を呼び掛けたい、と話した。
当時イラクで拘束された日本人人質に対して日本政府が展開した「自己責任論」に、木村牧師はテレビ番組などで全面的に反論して注目を集めた。
今回のバグダッド再訪で退避勧告を無視した点について、木村牧師はマスコミに対し「状況が泥沼化する前に人道支援するため決断した」と話した。