イギリスでは医師が法律に違反しておよそ3000人もの患者の安楽死を施していることが明らかになり、このことで新たに安楽死問題に関する議論を呼び起こしている。英紙「ザ・スコッツマン」に発表された新報告によると、2004年の一年間で死亡した人のうち19万2000人(およそ3人に1人)が鎮痛を施す医師によって死を早められたという。
しかしながら英国医師会(BMA)は医師が安楽死に関わったケースは全体のほんの一握りでしかないと、この報告の内容を否定している。
安楽死の適切な施行のために法規制の変更が必要だと主張する多くの安楽死活動家にとって、この報告書は新たな希望を与えるものとなった。自発的安楽死協会(VES)事務総長デボラ・アネット氏は患者の同意なしに安楽死を執行する医師から患者を保護するためにより大きな規制をかける必要性を呼びかけている。
英ブルーネル大学教授クリブ・シール氏が行った857人の医療専門家への調査によると、2004年度の58万5000人の死のうち936人(0.16%)は患者が医師による薬物投与で死を迎えることに同意した上での自発的安楽死であったという。
また1929人(0.33%)は患者からの明白な同意なしに医師によって死を迎えさせる、いわゆる非自発的安楽死で死に至ったという。この非自発的安楽死とは、患者は安楽死を希望していたが、症状が悪化する前に医師によって具体的な安楽死の方法の説明を受けていなかったことを意味する。
この調査結果によれば、死者のうちの3人に1人に及ぶ19万1000人が鎮痛剤を用いて死を早められたになる。これは「寿命短縮による症状緩和」と医学的に呼ばれている治療行為だ。
この調査からシール教授は、患者が死を迎えるために薬物を投与する自殺支援のケースは見当たらなかったという。
しかしながら自発的または非自発的安楽死とされた安楽死うちの2865件は英国法の下では不法であると判断されている。
シール教授は、「他国に比較すれば不法行為といわれる件数ははるかに少ない。3000件はたくさんあるように聞こえるが、実際そうでもない。イギリスにおける安楽死の違法行為は他国に比べれば極端に少ないといえる」と話し、今回の調査結果は現状を正確に反映したものだとした。
また英国医師会のスコットランド協議会会員のジョージ・ファーニー博士はシール教授の警告に対し、「私は一日に換算して8人もの患者が、医師によって故意的に殺されていると言うことに疑問を感じる。私はそのようなことは起こっていないと信じる」と、安楽死と苦しんでいる患者に鎮痛剤を大量に与えることの違いを指摘した。
スコットランド教会の教会社会協議会議長モラグ・ミルネ氏は安楽死を法律で認めること、法規制を緩和することに反対しており、このような調査結果に対して疑念を抱いている。「私は一日に8人の医師が安楽死を実行し、告訴される事態にさらされているということが大変想像しがたい。医師を告訴する前に、すべての件について事実を詳細に明らかにする必要がある」などと述べた。
このような安楽死問題はイギリスのみならず各国で議論を醸している。安楽死の種類も安楽死にいたるプロセスも多様である。今後の課題として、安楽死と患者の苦痛を長引かせる延命治療の違いを法規制によりいかに明確にするかが問われている。