パキスタンの警察当局とキリスト教聖職者によると12日、中部パンジャブ州のサングラ・ヒルで、イスラム教徒約1500人の暴徒がキリスト教会3つと修道院、牧師館などに放火した。翌13日に聖日を迎えたこれらの教会の会員は屋外で礼拝を行い、少数者を標的とした差別的暴力を非難した。地域のキリスト教徒を保護するよう政府に訴えている。ロイター通信などの報道で16日までにわかった。
カトリック教会のローレンス・サルダナハ大司教は記者会見で、キリスト教徒に対し、報復行為をしないよう呼びかけた。これまでのところキリスト教徒による暴力は確認されていない。
大司教によると、12日午前10時ごろ、興奮したイスラム教徒の一団がバスで教会関連の建物周辺に集まった。襲撃は、綿密に計画されたようだったという。
地元紙によると、放火と損壊で被害を受けたのはプロテスタント長老教会、ローマ・カトリック教会、修道院、キリスト教系学校、プロテスタントの牧師館で、いずれも全焼した。これ以外に、プロテスタント「救世軍」小隊の建物とキリスト教徒の住宅数棟が複数回にわたって攻撃を受け、一部損壊した。死傷者は出ていないもよう。
AP通信は未確認情報として、今回の反キリスト教の暴力行為は、イスラム教徒2人がこのキリスト教徒にギャンブルで負け、支払いを拒否してトラブルとなったもようと伝えている。14日付けの地元有力紙「ダウン」もこの情報に関する複数の証言を報じている。キリスト教徒がイスラム教の経典コーランを侮辱したという一部の情報について、現地の人権擁護団体やキリスト教指導者らは、そのような事実はないと否定している。
ダウン紙は、今回の組織的襲撃についても、地元のイスラム教指導者が情報網を利用してイスラム教徒を動員し襲撃に参加させたと報じている。
現地の超教派キリスト教組織「全パキスタン少数派連合」代表の話として、AP通信は12日、「われわれキリスト教徒はコーランをそのように扱ったことがないし、考えたこともない。イスラム教の預言者ムハンマドには敬意をはらっている」と伝えた。同連盟はイスラム教社会の少数派組織の権利保護を訴える団体。パキスタンは人口1億5000万人のほとんどがイスラム教徒で、キリスト教徒は3%に満たない。
コーラン冒とくの罪でこのキリスト教徒が有罪判決を受けた場合、パキスタンの憲法では死刑の可能性も出てくる。複数の人権擁護団体は、少数派に対する個人的な感情によって憲法が悪用されるケースが少なくないとして司法当局や政府に改善を求めている。
ダウン紙によると、同国のキリスト教主要組織は13日に緊急会議を行い、冒とく罪に対する憂慮を表明した。会議にはパキスタン人権平和委員会(NCJP)関係者も参加し、冒とく罪の存在が諸宗教や少数派の共存の妨げとなっていると指摘した。同委は警察当局に対し、暴力行為の取り締まり強化とキリスト教徒の保護を要請した。
ロイター通信によると、現地ではイスラム教徒による暴力を恐れたキリスト教系住民200世帯以上が避難している。
キリスト教諸派は17日に国内各地で抗議と祈りの集会を開催し、平和を求めるピースウォークを実施する予定。