政府の認可を得ないで聖書などキリスト教書籍を印刷したとして、中国・北京市のキリスト教信徒3人が懲役3年から1年半の実刑判決を受けていたことが、米国に本拠を置く人権監視団体、中国援助協会の報告で12日わかった。
北京中級裁判所は8日、不法業務取締法違反に問われた蔡卓化牧師と肖云飛牧師夫人、夫人の実弟、肖高文さんに対してそれぞれ懲役3年、2年、1年6月および罰金の実刑判決を言い渡した。判決によると、蔡牧師は自身が牧会する政府未認可の教会(地下教会)に大量の聖書やキリスト教関連書籍を当局の許可なく保持していた。
来週にはブッシュ米大統領が19〜21日に訪中、胡錦濤主席との会談を予定している。中国援助協会のボブ胡代表は、今回の事件を深刻な宗教弾圧の実例として中国側に改善を求めるよう大統領に要請する意向だ。
同協会によると、蔡牧師は教会内に聖書20万部を保管していた。自身が自前の印刷機械で印刷したものという。だが、北京市が運営する香港の地元紙が今年7月に報じたところによると、蔡牧師は販売目的で聖書や関連書籍約4000万部を印刷したという。同紙は「蔡氏は聖書を2百万部印刷し、無償提供はせず、無許可で販売した」との政府宗教課担当者の談話を掲載した。
蔡牧師の母親はロイター通信の取材に対し、「政府側は、息子が聖書の代金を受け取ったことを示す証拠を提示できなかった」と述べた。「悲しみや怒りは感じていません。神の意志があるはずだから」という。懲役刑に加え、裁判所は蔡牧師に対し罰金約2万5千ドル、肖夫人に1万8550ドル、夫人の弟に1万2360ドルの支払いを命じた。
政府の同担当者は裁判について「宗教的迫害ではない」と断言している。一方でこの担当者は同香港紙の取材に対し「宗教は、欧米の反中国勢力が中国を西洋化、解体するために利用する手口」などと話していた、とロイター通信が伝えている。
中国国内では、聖書は政府公認の教会の売店で購入できるが、一般書店での販売は禁止されている。ただ、2004年12月に来日した聖書協会世界連盟アジア事業部主任のクア氏によれば、個人の聖書所有の権利は保護されているため、教会が多い都市部では比較的簡単に聖書を手にすることができる。同協会発行の聖書は1部12元(約150円)前後だが、経済力のない地方部ではこれより高額で販売されている。一部の業者が標準価格の数倍の値段で聖書を販売するケースもあり、中国政府による販売規制が悪影響を及ぼしている。
裁判で蔡牧師を弁護した弁護士は「蔡牧師が印刷した書籍を店頭などで販売することなど不可能。教会員に無償で配布するために用意してあったに違いない。いずれにせよ、商取引の実態は今回の場合関係が無い」と話しているという。また「裁判所が宗教や信教の自由を否定してはならない。だが、宗教や政治問題を商業議論にすり替えるやり方が中国の法曹界で常套となっている。この国では司法は道具に過ぎない」と強く非難した。
ロイター通信によると、蔡牧師ら被告側は、無償で支援を申し出た他の弁護士らとともに10日間以内に再審請求をする。