他宗教間の対話は大切だ、と、だれでも漠然と考える。しかし、人の命が左右されるほどに大切なのだと、感じる人は少ないのではないか?6月25日、フィリピン・ミンダナオ島出身のアガリン・サラ(Agalyn Salah)さんの講演が、仙台で行われた。この講演で、命をかけた「宗教間連携」があることを、私は知った。
フィリピン・ミンダナオの20世紀は、土地を巡る戦いの時代であった。20世紀初頭、米国企業がミンダナオの土地を奪った(詳細は、鶴見良行『バナナと日本人』岩波新書参照)。第二次世界大戦中、私たちの父祖の軍隊とアメリカの軍隊は、ミンダナオの大地を激しく傷つけた。大戦後、多国籍企業はプランテーションを求めてミンダナオの大地を奪った。そして1980年代以降、ミンダナオの大地の下に、豊かに眠る天然資源が発見され、土地への欲望がさらに燃え上がることになった。
そして21世紀の今日。2000年、当時の大統領エストラーダは、ミンダナオに「全面戦争」を宣言した。数万の人が家を追われ、数千の人が殺された。そして、「9・11」が起こり、アメリカは世界中に「対テロ戦争」を宣言。ミンダナオに住む多くのイスラム教徒が、一方的に「テロリスト」と決め付けられた。既に行われてきた爆撃、殺戮、サルベージ(暗殺)、レイプは、いよいよ激しさを増す。これに加えて、アメリカの「対テロ戦争」は新しい「土地」への欲望を生み出した。フィリピン国内における米軍基地の新設である。「テロリスト」として多くの人々を殺し、追放し、土地を奪った米軍は、今現在、フィリピン南西の島・バシラム島を「基地の島」としつつある。
以上のことを訴え、理解を求めるアガリン・サラさんは、イスラム教徒であり、かつ、キリスト教会で働いてきた。アガリンさんは言う。ミンダナオでは長い間、イスラム教徒とキリスト教徒は親しく交わり、互いを尊敬しあってきた。そして今現在、ミンダナオ島の難民を支援しているのは、ほかならぬキリスト教団体である。しかし、フィリピンのマスコミはまったく別の姿を報じている。マスコミ報道においては、ミンダナオで起こっている悲しむべき出来事は、キリスト教とイスラム教との「宗教戦争」であるとされているのだ。
今、アガリンさんたちとフィリピンのクリスチャンたちは、命をかけて連携を強化している。これは命がけの「競争」である。アガリンさんたちの「宗教間連携」と、マスコミが煽る「宗教間戦争」の、競争である。もしマスコミが勝ち、ミンダナオで起こっている事柄が「宗教戦争」であるとの理解が広がれば、フィリピンの世論はミンダナオを無視してしまうだろう。それは、かつて独裁者を追放し、米軍基地を撤退させたフィリピンの尊敬すべき「ピープルズ・パワー」が分断されてしまうことを意味する。「ピープルズ・パワー」とは、信仰篤いクリスチャンの祈りの力でもあったことを、私たちは忘れてはいけない。
日本のキリスト教徒諸賢に、私は願う。いまフィリピンで起こっている「命がけの競争」を覚えて、信仰の兄弟姉妹、アジアの友のために祈ることを。そして、今現実に起こっている事柄の本質を、信仰と愛の目をもってハッキリと見抜くことを。そして何よりも、平和の主が世界の主であり、私たちの教会の主であることを信じる信仰が強められることを、私は祈りつつ、強く願う。
大学院生 川上直哉 (宮城県仙台市)