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「保証人になるな」
あなたは、「お金を借りるので保証人になって欲しい」とか、「マンションを借りるので保証人になってくれませんか」と頼まれたことはありませんか。
頼んできた人が、家族や親族だったり、親しい友人だったり、大切な取引先だったりすると、なかなか断れませんよね。「ただ名前を書いてハンコを押すだけでいい」と思うと、つい、「ああ、いいですよ」といい顔をして、保証人になってしまうことがよくあるのではないでしょうか。
「まさか、保証人になってくれと頼んだ人が倒産したり、借金を払わないようなことはないだろう」と思って気軽にハンを押してしまいがちです。でも、年間の破産件数が30万件を超えている時代です。とうことは、破産までいかなくても、正常な返済ができないで慢性的に支払いが滞っている件数は数百万件はあると思うのです。
あなたに保証人になってくれと頼んだ人が、他人の保証人になっているかも知れません。連鎖倒産といいますが、誰かが破産したりすると、その破産は連鎖的に広がっていくものです。その最大の被害者が保証人なのです。
保証人になることが怖い点は、頼んだ人の不払いの全責任を負わされることです。本人が病気になって働けなくなった、本人が夜逃げして行方がわからない、そういう場合でも保証人の責任は追求されます。とんでもないことですが、保証人の責任は保証人が死んだら相続人の責任になって残るのです。
本人がどうしても保証人が必要な場合には、他人の保証をしてくれる会社がありますので、そのような保証会社に保証人になってもらうことです。保証会社に保証を頼むには、保証料を払わなければいけませんが、その保証料を貸してあげたらよいと思います。
もちろん場合によっては保証人になってあげることが、どうしても必要なことはありますよね。保証人になったら必ず責任を問われてしまうということでもありません。なにも問題は起こらないケースもあると思います。私もいろいろな方から保証人になって欲しいと頼まれることがあります。原則としてはお断りしますが、断ったらご本人が本当におこまりの場合には、やむを得ずなることもあります。なにごとも原則と例外があります。保証人になることは大変危険なことだと認識したうえで、その都度正しく判断してください。
最近、保証人になったためにお困りになった方々の相談がふえてきました。その経験から、保証人になることは大変危険なことだなぁと思い、今日は実際にあったことふまえて、ご参考までにお話したいと思います。
ある人が亡くなって、奥さんと子どもが相続した家に住んでいました。しばらくして銀行から内容証明が届きました。なんだろうと思って開けてみると、亡くなった方が生前保証人になっていた取引先が倒産したので、遺族が責任を取ってくれというものです。遺族はそんな保証人のことなど聞いておらず、まさに寝耳に水でした。結局、せっかく相続して住んでいた家を銀行に取られて追い出されただけでなく、それでも払い切れない保証債務のために、奥さんと子どもが自己破産しなければならなくなってしまいました。
これはかなり極端な例ですが、他人の保証人になったばかりに、保証人が全財産を失い、家族ともども路頭に迷ったという悲劇はずいぶんありますよ。人を愛し人に親切にしなさいと書かれている聖書にも、「保証人にだけはなるな」とあります。その理由は、保証人になることはあまりににも簡単だが、その責任はあまりにも重過ぎるからでなはいかと思います。気安くハンを押したことで、自分と自分の家族の人生が左右されてしまうのですから。
保証人になっても何の得もないのです。逆に損をするばかりです。第一に、保証人になってあげた時は、本人から感謝されますが、それ切りです。本人もそのありがたみをすぐ忘れてしまいます。第二に、保証人は、いつ責任を追求されるのかと、ずっと心配していなければなりません。第三に、本人に問題が起きた時は、保証人だけでなく、保証人の家族にも被害が及んでいくのです。
ではどうしたらいいでしょうか。まず、あなたが保証人の責任の大きさを正しく知ることです。それを説明した上で、保証人になってくれと頼んできた人の依頼を断ることです。冷たいようですが、保証人になることを断ることによって、本人も安易な借金に頼らず自立する努力をするようになることが多いのではないでしょうか。
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佐々木満男(ささき・みつお):国際弁護士。宇宙開発、M&A、特許紛争、独禁法事件などなどさまざまな国際的ビジネスにかかわる法律問題に取り組む。また、顧問会社・顧問団体の役員を兼任する。東京大学法学部卒、モナシュ大学法科大学院卒、法学修士(LL.M)。