主役を演じる人々の罪の贖いや永遠を求めて善と悪の最中を戦い抜く姿の中に、「神様の形」を見出すような作品が数多く存在している。第83回アカデミー賞にノミネートされた10作品では、強迫観念にとり付かれたバレリーナ、どん底から頂点を目指し奮闘するボクサー、亀裂した家族の関係を修復しようとする人々の姿などが描かれており、それぞれの作品を通して「神様の形」が人の中に現れるための奮闘・試練の道が表現されている。
アカデミー賞長編アニメ賞にノミネートされた「トイ・ストーリー3」ではおもちゃとしてアンディに所有されていたが、アンディが大人になったため捨てられることになり嘆くおもちゃたちの姿が描かれている。米クリスチャニティ・トゥディはこの映画を「2010年度もっとも称賛するべき映画」と評価し、映画の中に描かれる母親の姿について特に高い評価をしている。
「キッズ・オールライト」では「本当の家族・本当の愛情とは何か?」をテーマに描かれており、主要4部門(主演女優賞、助演男優賞、作品賞、脚本賞)にノミネートされている。父親は「精子提供者」として描かれており、2人の母親ををもつ2人の10代の子どもたちが最終的に「型破りの家族」の在り方を受け入れるという物語になっている。キリスト教徒にとっては不快感を与える同性愛者について取り上げられているシーンがあるものの、子どもたちが型破りな家族の在り方の中にあっても奮闘しながら父親を含めた家族の関係を回復させていく姿が高く評価された作品となっている。
家族のための音楽ビデオ配信サイト「プラグドイン」アソシエート・エディターのポール・アセイ氏は「家族は私たちがこの世界に存在する基盤となるものです。本年のアカデミー賞ノミネート作品はこの価値観を強く反映しており、家族関係に亀裂が生じたときに何が起こるかについて深い洞察を与える作品が多いです。そのような状況において、主人公たちが関係を修復しようと奮闘する姿が描かれています」と述べている。
本年度ノミネート作品の多くは興行収入と画期的な高評価の両方を得ている。多数の部門にノミネートされており、観客を主人公の精神的な戦いの奥深くに引き込む作品となっている。
「英国王のスピーチ」はノミネートされた10作品の中で最も多くの部門である12部門にノミネートされている。クリスチャニティ・トゥディは同作品を2010年度最も称賛すべき映画第2位に挙げている。吃音に悩む英国王ジョージ6世が自らを克服し、国民に愛される本当の王になるまでを描いた感動の実話作品となっている。
本年度アカデミー賞10部門にノミネートされた「トゥルー・グリッド-復讐の時」はコーエン兄弟の最高傑作と評されており、映画の中で生と死の問題を行きすぎた暴力や冒とくの表現をすることなく表現している。 映画制作者で評論家のクレイグ・デットウェイラー氏は「『トゥルー・グリット』は箴言の聖句を引用しており、『心を尽くして主に拠り頼め(箴言3:5)』という御言葉に帰結するストーリーとなっています。主人公である牧場主の娘マティが父の復讐をするという行為の代償がどんなに高くつくかを見出すことができます。義の道を追求するということが、長く曲折した旅の結果行きつくものであることがわかります」と評価している。
「ウインターズ・ボーン」も4部門にノミネートされており、麻薬を取り扱う父親を更生させ、家族を一つにしようとする娘の葛藤を描いている。「ブラック・スワン」は5部門にノミネートされており、主人公が母親との複雑な関係を解決しようと取り組む姿が描かれている。6部門にノミネートされた「ザ・ファイター」も亀裂の入った家族の関係を修復していくストーリーとなっている。「インセプション」では主人公のドム・コブは最終的に家族の下に戻っていこうとする姿が描かれている。コブにとって世界でもっとも重要なことは自分の息子の実の父として存在することにあることに気づくようになる。
これらの作品ではどれも亀裂の入った家族の関係からストーリーが始まっているが、この関係性の修復のための過程がそれぞれの作品の主人公たちの精神的成長に重要な意味を成していることに気づかされる。これらの作品から、私たち人間にとってどれだけ家族の関係が大切であるかということを改めて実感することができる。
主人公たちはみな家族の平和あるいは和解、破たんした関係の修復の道を模索している。彼らはどうにかして、家族を称える道を模索している。家族の関係が危機的な状況になったときにこそ、私たちが真にその関係を修復し、感動的な和解ができる機会が与えられていることに気づくことができる。
ノミネートされた作品の中には、人生の難題に立ち向かうことをテーマにしている作品もある。−「もしあなたの手があなたのつまずきとなるなら、それを切り捨てなさい(マルコ9:43)」-この聖句が「127時間」のスローガンとなっている。ジェームズ・フランコ演じる登山家が、巨岩に手を挟まれ、最終的には自分の意思で手を切断するという非常な勇気を必要とする決断に至る作品である。この演技によってフランコ氏はアカデミー主演男優賞にノミネートされた。また「ブラック・スワン」では、主人公のバレリーナが品のあるチャイコフスキーの「白鳥の湖」を演じる姿から、「黒鳥」をも演じることができるようになるために、己の暗黒面に対峙しながら自分を追い込むことで、だんだん狂気に陥っていく姿が描かれている。世の評価のみを追い求める人間の姿の極端な一例と見てとることができる。
今年度アカデミー賞ノミネート作品から、現代文化・テクノロジーの中で変質してしまった家族関係を修復する深い洞察がなされていることが伺える。インセプションはテクノロジーが人間の意識の中にある夢を変化させるという、今年度最も社会的に議論を醸し出す映画となった。「ソーシャル・ネットワーク」ではフェースブック創設者の若き天才が主人公として描かれているが、天才的側面を持つものの、社交性に欠け、複雑な現実の人間関係よりもバーチャルな世界での友人関係を好む姿が描かれている。同作品は合計8部門にノミネートされている。現代IT社会に生きる若者、リアルな人間関係を持つ機会の少ない職業につく人々の二面性やその問題点をうまく表現した映画となっている。
キリスト教徒からは特に「ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島」が福音的映画として注目されたが、本作はシリーズ第3作目となったこともあり、映画チケットの販売数、画期的評価双方の点においてあまり振るわず、ノミネート作品には至らなかった。その他ノミネートされなかった作品の中でも、カトリック団体など多くのキリスト教団体から、キリスト教的価値観が深く入っており高く評価されている作品も存在している。
クリスチャンにとっては、これらアカデミー賞ノミネート作品やその他の作品について、聖書的視点からそれぞれの作品の人物の霊的成長について語り合い、作品について紹介し合うことも、大きな楽しみの一つである。