この10年間、次々に終末論映画が作られたことに最も影響を与えたのは、マヤ文明人類滅亡説であることは間違いないと思う。2012年人類滅亡説とは、マヤ文明において用いられたていた暦の一つの5200年長期暦が、2012年12月21日頃に一つの区切りを迎えるとされていることから連想された終末論の仮説である。
私の意見をストーレートに簡潔に記すのだが、これは「あり得ない」と言うに極度に近いほど起こらないだろう。ここで、「あり得ない」と断言しないのは、その日その時は神のみぞ知るからだ。その理由を挙げてみる。
1.まず、暦を作成したマヤ人が、この日は人類滅亡の人は予言していないことである。彼ら自身が少しのヒントすら伝えようとしていないことを読み込むのは強引過ぎる。
2.暦の解釈は様々である。長期暦のグレゴリオ暦(現行の西暦)への換算は様々な(学者の間で同意されていない)計算法が確立されているが、本来のマヤ・カレンダーは紀元前3373年を始まりとし、1トゥンは360日をベースとして5200年サイクルとなるため、1827年を一区切りとしてすでに新しいサイクルに入っているとする主張もあるのだ。つまり、この主張によると2012年説は1827年説であるべきだったのだが、人類は滅亡しなかった。2012年12月21日解釈も正確とは言えないのだ。
3.さらに13バクトゥン(187万2000日)で終了するかのようなサイクルの解釈もマヤ文明によるのではなく、西洋的なものであるという疑いも強いのだ。マヤ人には人類滅亡という考えではなく、暦が周期的サイクルを延々と繰り返すという考え方があったことも明らかになっている。
4.また、この長期暦は紀元前3373年を始まりとするが、この年は神話の年であって歴史的にも現行のどの暦にも適合させることはできないし、まして西暦グレゴリオに換算などできないのだ。前提からすでに2012年説は外れているのだ。
5.この2012年人類滅亡説を唱えている中心的な人々は、ノストラダムスによって予言された「恐怖の大王」が1999年に人類を滅亡させるというセンセーションを起こしたのと同じグループなのだ。ノストラダムスについてもマヤについても強引に人類滅亡に結び付けているだけで、科学用語や天文学用語を巧みに用いているが、科学的な検証をしているようには思えないのだ。1999年に人類は滅亡しなかったように、2012年12月21日も空振りになるだろう。
6.NASAがこの日の滅亡説には科学的根拠がないと言っている。なぜ、NASAがこの主張をいろいろな形でしているかというと、映画『2012』を見て、その臨場感に圧倒されて絶望し、4人の中学生が自殺したからなのだ。マヤでもグループ自殺が起こったのだ。私も今でも覚えているが、中学生は神経が繊細で過敏な時期であるので、映像から強烈なリアリティを感じるのだ。私自身、50年前に見た『出エジプト記』の紅海が二手に分かれたシーンを今でも新鮮に覚えているほどなのだ。NASAが伝えることは全部正しいとは全く思っていないが、天文物理学において世界一の権威でもあるのだから参考にすることは当然であろう。
7.聖書は、多くのページを使って終末論を伝えているが、「その日、その時はわからない」と繰り返している。「夜中に、盗人が来るように来る」のだ。今まで、宗教人、数学者、天文学者、科学者、統計学者によって「終末日」が設定されたが、一度も当たってはいない。
宗教的説得力があり、数学的確率計算が示され、宇宙の運航から証明され、科学的な論理性によっても、その日を決めることは愚行であることを歴史は示している。私の意見は単純で明快であるが、この日に人類が滅亡することはない。
平野耕一(ひらの・こういち):1944年、東京に生まれる。東京聖書学院、デューク大学院卒業。17年間アメリカの教会で牧師を務めた後、1989年帰国。現在、東京ホライズンチャペル牧師。著書『ヤベツの祈り』他多数。