日本ローザンヌ委員会(金本悟委員長)は11月22日、東京都千代田区のお茶の水クリスチャンセンターで、第3回ローザンヌ世界宣教会議(10月16〜24日、南アフリカ・ケープタウン)の報告会を開催した。53人が参加し、現地参加者によるプレゼンテーションやビデオ上映などに熱心に聞き入った。
神戸ルーテル神学校校長の正木牧人氏は「会議から持ち帰ったものは(各参加者)それぞれで違う。それがこのローザンヌ運動の特徴」と宣教に対する個人的な意思表明として誕生し全世界に広まったローザンヌ運動の価値を紹介した。その上で「各地の指導者がそれぞれの問題点等を持ち寄り、上下関係も無く、客でもなく、(当事者として)参加することができた。さまざまな問題に対して迅速に対処しながら、ネットワークを形成することが大切だ」と宣教モデルの刷新を呼び掛けた。
講演した東京ミッション研究所総主事で東京聖書学院教授の西岡義行氏はローザンヌ運動の歴史的背景について、1952年の国際宣教協議会の会議でミッシオ・デイ(神の宣教)の概念が出されて以後、その解釈をめぐり、いずれ滅びる世界よりも魂の永遠の救いにのみ仕えようとする根本主義と、現実社会の救済を重視する自由主義との二極化による対立があったと説明した。やがて第1回ローザンヌ会議(1974年)で成立した「ローザンヌ誓約」が世界の福音化を『全教会が全福音を全世界に』もたらすことと定義したことにより、伝道と社会的参与の両方を提示する包括的福音理解が確認された。西岡氏は「しかし、この両者(伝道と社会的参与)の関係性は不明瞭のまま残された」と振り返った。
第2回の会議(1989年)では、「全教会」「全福音」「全世界」の3つに焦点が当てられ、全教会の協力による全世界の網羅的な宣教に対する戦略的ビジョンが描かれた。一方で、神学的議論と戦略的実践との間で「各論の一人歩き」による距離感が生じ、ローザンヌ運動は失速していった。
西岡氏は、「福音派の教会は、20世紀における躍進の中で、『教会』という世界の維持拡大を目指」していたと指摘した。同氏によると、こうした「自己目的化」により、教会は自ら「福音をわい小化させ、世界の現実から遊離した、部族化し分断化された世界を作り上げ、自らが安住できる特殊世界を維持しよう」とした。ローザンヌ運動の神学委員会委員長、クリス・ライト氏が講演で「福音宣教の最大の障害は、権力、自尊心、名誉、富に対するクリスチャン自身の偶像崇拝」と指摘した背景について、教会が「社会の闇や課題、地球規模の課題に責任ある姿勢で臨まなかった結果、社会の闇が教会世界に入り込んでしまった」と話した。
講演したNGO『声なき者の友の輪』スタッフの柳沢美登里氏は、欧米諸国が主体だった20世紀までの宣教体制が、民族、言語を越えた対等で相互的なパートナーシップへと変化したと説明し、「今後は、だれもが宣教の主体になる」と話した。また、トリニティー・フォーラム創設者、オズ・ギネス氏の「福音によってのみ、最も公正で自由な人類社会がもたらされる」という言葉を引用し、「クリスチャンの日本人が、変えられた生き方を真の自由のうちに選び取るとき、待ち望まれた日本人アイデンティティを日本社会に提示できる」と提唱した。
講演したインターナショナルVIPクラブ代表役員の市村和夫氏は、行動や態度で周囲にキリストを証しする信徒リーダーの重要性、他宗教に対して「改宗させるのではなく、全人類のためのキリストを証しするために自ら中に入っていくことの大切さを語った。また、「グローバルCEOの集まりの中で、互いにネットワークを持つことにより、ビジネスマン同士、政治家同士、クリスチャンにしかできない働きがある」と話し、ある未信者の知人が『日本、中国、韓国をつなぐのはキリスト教しかない』と話したことを紹介した。
帰国者や内外邦人宣教フォローアップを行う超教派ネットワーク、『ディアスポラ・ネットワーク・フォー・ジャパニーズ』のコーディネーター、青木勝氏は講演で「ディアスポラの問題は日本国内だけでなく、海外で召されている人にとっても重要」と話し、邦人帰国者や在留外国人の宣教協力を通して日本の宣教が推進されることへの期待を語った。
金本委員長はケープタウンで奴隷博物館を訪れたときの感想を述べ、「100年前、アフリカの地できちんとした人権が与えられていたのは白人だけだった。それを考えると、世界宣教会議がこの地で開催されたことは意義深い。この会議で話し合ったことが具体的に実現するまでに50年くらいかかるだろう。しかし、この(ローザンヌ運動という)ムーブメントを大切にしていきたい」と語った。
講演の後、ケープタウン2010で行われたテーブルグループを体験する目的で、現地参加者を含む4人ずつの小グループによる意見交換と祈りの時間があった。