2.母さん、死なないで!
ある日実家に帰って家内と相談しました。「死ぬ時は一緒に死のうね」って。
そうしたら、自分の保険はまだ切れていないことに家内が気がついたのです。「自分が死ねば父さんが助かる。借金も返せる」と家内は考えました。あんまり「死にたい、死にたい」を私が連発していたので、家内をその気にさせてしまったのです。言葉の力は恐ろしいものです。今度は家内が、「死にたい、死にたい」と言い始めました。今年8月に帰省した時に同じ話題になりました。子どもたちも夏休みで家族がそろっていました。当面のお金がどうにもならない話をしているうちに、家内が「もう死ぬ!」って言い出したのです。「じゃ僕も死のう」売り言葉に買い言葉で、家の近くにある大きな橋から海に飛び込むことにしました。
家族全員で死のうと、四人そろって一緒に橋に向かいました。瀬戸内海にある上関島と山口県を結ぶ「上関大橋」という長さ数百メートルの大きな橋です。その橋は海から80メートルほどの高さにありました。到着した途端、橋の欄干幅10センチくらいのところに家内が本当に上がったのです。慌てて私も上がりました。身長が150センチくらいしかない彼女にとっては、とても高いところだったに違いありません。一緒に死ぬことしか頭にない私は、家内を助けようともせずに、1メートルほど離れた位置に膝をガタガタ震えさせながら立ちました。
私は自殺未遂の経験はあります。でもその時は死ぬのが怖くて、「どうしたら楽に死ねるか」を考えたのです。インターネットで楽に死ねる自殺の方法を研究しました。「日ごろ飲んでいた睡眠薬を少しずつためて約80錠にして、それを一気に飲んで、寝ている間に練炭の一酸化炭素中毒で死ねば楽だろう」こんな情けなくも勇気のない自殺計画を作ったのです。
家内は気丈な性格で恐れを知らない真っ直ぐな人間です。私みたいな人間と結婚していなかったらどれほど幸せな生活を送っていたのだろうか・・・と思い悩むこともあります。息子は二人とも私に似て出来は悪いですが、正直者です。兄貴は堅いばかり、弟はひょうきんで、内向性と外向性の正反対な性格の兄弟なんです。それなのに、二人とも母さんが大好きで、今の年になっても一緒に遊びに行ったりしているようです。
その母親が橋の欄干に上って海に飛び降りようとしているのですから大変です。一緒に死のうと言っていた子どもたちは、びっくりして大声で泣きながら、「母さん死なないでー!」って、彼女の足にしがみつきました。まさに、悲劇映画のクライマックスです。あまりに大きな叫び声に、私は欄干から落っこちそうになりました。子どもの必死の叫びに我に返った母親は、泣きながら欄干を降りて、子どもたちと3人でワーワー泣いていました。
その間、私は欄干の上で足を震えさせながら、「落っこちたらどうしよう」と自分の心配ばかりしていました。結果的には落ちなくて良かった。「生きてて良かった!」ではなく、「落ちなくて良かった!」と自分のことしか考えませんでした。
欄干から橋の上に降りた私は子どもたちに聞きました。「なんで父さんを止めてくれなかったのか!?」。二人とも返事もしてくれません。子どもたちの父親に対する愛の欠如を強く感じた瞬間でした。「くそっ!いっそ欄干から落ちて死んでいれば良かった・・・」と思いました。今度は、喜劇映画のクライマックスです。でも、自分がやりたいようにやってきて事業に失敗したわけですから仕方ありません。仕事にかまけて子どもたちの世話はほとんどしてこなかった付けが回ってきただけです。
それにしても、私が原因で家内を死ぬ気に追い込んでしまって大変すまないと思っています。最後の瞬間に神さまが介入してくださって、家族全員が飛び降り自殺を免れたことを、心から感謝しています。「母さん、生きててくれてありがとう!」心からこう言いたい気持ちでいっぱいです。母さんの飛び込みを阻止してくれた子どもたちにも感謝します。また、私たちが自殺しないように真剣に祈ってくれたクリスチャンの仲間たちのお陰でもあります。「イエスさまを信じていれば、なんとかなる!」と言っていたことが本当になりました。(続く)
アブラハムささき法律事務所所属・小濱敏雄(オバマ・パウロ・トシオ)