米国の著名フォークグループ「ピーター・ポール&マリー(PP&M)」のノエル・ポール・ストゥーキー氏(69)が先月17日に来日し、北朝鮮の拉致被害者である横田めぐみさんの救出を願い、自らが作詞作曲した歌「SONG FOR MEGUMI(ソング・フォー・メグミ)」を披露した。ポール氏は来日中、横田滋さん(74)、早紀江さん(71)と共に記者会見や首相官邸訪問を行い、6日間の日本滞在を終えて22日に帰国した。「『ソング・フォー・メグミ』は人の命の尊さを歌った曲」とポール氏は話し、「この歌が拉致問題の解決に少しでも貢献できれば」と願った。
2年前から北朝鮮の拉致問題に関心を持っていたポール氏は、拉致問題を題材にしたドキュメンタリー映画「めぐみ―引き裂かれた家族の30年」に感銘を受け、横田めぐみさんにささげる歌を自ら作詞作曲したい思い、楽曲の製作を始めた。そうして完成したのが、今回披露された「ソング・フォー・メグミ」である。
18日に都内のライブハウスで横田夫妻と初めて顔を合わせたポール氏は、流れるような優しいメロディにのせ、英語の歌詞に時折日本語を織り交ぜながら「ソング・フォー・メグミ」を歌った。曲の冒頭で「めぐみ、何か話して」と切なく呼びかけるポール氏の声が、横田夫妻の声に重なる。歌を聴いた横田早紀江さんは目に涙を浮かべていた。「風の中にあなたの声が聞こえます」という歌詞を聴き、めぐみさんの声が聞こえないかと新潟の海岸で耳を澄ませたことを思い出したという。
めぐみさんは北朝鮮で、しばしば布団に隠れながら、指導員に聞こえないような小さな声で日本の唱歌を歌いながら泣いていたという。「荒ぶる大海の向こうより、力の限り魂を叫びなさい、私の心なら必ずそれが聞こえるから、そしたらあなたは家に帰るのよ、私に返してください私のめぐみを・・・。」ポール氏は、めぐみさんを思う横田夫妻の心情を歌で代弁した。
「ソング・フォー・メグミ」を聴いて横田早紀江さんは、「神様が下さったすばらしい歌だと思っています。本当に涙が止まりませんでした」と語った。また、横田滋さんは「この歌が拉致問題解決のため大きな力になると信じています」と語った。ポール氏も、「金正日総書記は音楽が好きだから、この曲を聴けば自分にも家族がいることを考え、(拉致問題の解決に向けて)もっと努力するかもしれない」と期待の意を表した。
ポール氏は20日には首相官邸を訪問し、安倍首相と面会した。ポール氏は安倍首相と横田夫妻を初めとする拉致被害者の家族らの同席のもと、「ソング・フォー・メグミ」を披露。首相らはポール氏の優しい歌声に聴き入った。安倍首相は「ずっとあなたがいなくて悲しい、という歌詞があったが、一日も早く解決して、再会してほしい」などと語った。
ポール氏は、60年代から活躍しているアメリカの伝説的なフォークグループ、ピーター・ポール&マリー(PP&M)のメンバーの一人。約40年間の音楽活動の中で、一貫して反戦・平和・人種差別撤廃などの問題解決に取り組み、歌を歌い続けている。60年代初頭には、マーティン・ルーサー・キング牧師と共にワシントン・デモを敢行し、約20万人の観衆の前で楽曲「風に吹かれて」を披露したことで全世界から注目された。そのほか、南アフリカ共和国の人種差別制度「アパルトヘイト」にも反対し、ネルソン・マンデラ氏の釈放運動にも大きく貢献した。
また、ポール氏は国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの一員として以前から北朝鮮の拉致問題に深い関心を抱いており、拉致問題の早期解決に貢献するために「ソング・フォー・メグミ」の製作を志すようになったという。今回ポール氏が来日した理由の一つは、アムネスティの一員としての責務を全うしようと同氏が決意したためだと関係者は話す。
「ソング・フォー・メグミ」は先月21日にCDとしてリリースされた。3月5日付けのオリコンシングルランキングによると、同楽曲は初登場78位にランクインされている。ポール氏は、CDの売上げによる収益を、「めぐみさん基金」を設立するために全額寄付したいとの意向を示している。
ポール氏は親日家でもあり、今年5月には、長年の交流がある南こうせつさん、C・W・ニコルさん、元ハイファイセットの山本潤子さん、元オフコースの鈴木康博さん、俳優の角野卓造さんらと共に「フォーク伝説・VIVA団塊・横田めぐみさん支援コンサート」を開催する予定。詳しくはキョードープロモーション(電話:03・3746・1152、ホームページアドレス:http://www.kyodopromotion.com/)まで。