【モスクワ=ENI・CJC】コンスタンティノープルのエキュメニカル総主教バルソロメオス1世が5月22日、モスクワを訪問した。旧ソ連時代とソ連崩壊後の地政学的な混乱に基づく緊張が数十年続いた後で関係修復を促進するものと期待を集めている。
バルソロメオス1世はペンテコステの23日、モスクワ近郊の『三位一体の聖セルギウス・ラヴラ教会』でキリル1世総主教と共に礼典を執行した。
ロシア正教会は、世界最大の正教会。またエキュメニカル総主教は、正教会では最重要な象徴とみなされている。しかしモスクワ側は、エキュメニカル総主教をローマ・カトリック教会の教皇に相当するものとされることには抵抗している。
ロシア外務省の大学MGIMOにある『教会と国際関係研究センター』の責任者である歴史学者のアンドレイ・ツボフ氏は21日、ロシア教会が継承したソヴィエトの遺産を克服するためにキリル総主教が働いている、と語った。
「キリル総主教は、コンスタンティノープルとローマ双方との関係を徹底的に改善する構想を持って着座した。そしてこの二つの方向に積極的だ」と言う。
総主教に2009年2月着座したキリル1世は、7月にはイスタンブールのエキュメニカル総主教にバルソロメオス1世を訪問した。そこで双方は、相違点を脇に置き、世俗的な悪に対する正教会の連合戦線結成を協議している。
バルソロメオス1世のモスクワ訪問は、正教会のヒラリオン府主教のバチカン(ローマ教皇庁)訪問直後に行われた。ヒラリオン府主教は、モスクワ総主教座の対外教会関係部門の議長としてはキリル1世の後任であり、5月20日にバチカンで行った演奏会には教皇ベネディクト16世も出席した。ローマ滞在中に、ヒラリオン府主教は、自分の目的はキリル総主教と教皇との会談だ、と述べている。
教皇ヨハネ・パウロ2世とアレクシー2世総主教との会談は結局実現しなかった。1990年代の双方の関係は、ウクライナでの問題とカトリック教会がロシアで改宗をすすめている、との正教会側の疑念から悪化していた。
ソ連の崩壊以来、正教会内の裁知権をめぐる対立から、エストニア、ウクライナなどでは国家の独立に伴い、教会もモスクワ総主教座から離れ、自立を志向する動きに火がついた。他のヨーロッパ諸国では近年ロシア人の流入で教会分割や財産紛争を引き起こしている。またモスクワ総主教座の支配が強まるにつれ、それに反対する側がエキュメニカル総主教座を「避難所」とするようにもなっている。
モスクワとコンスタンティノープルは、1970年以来、『アメリカ正教会』に独立自治を認める権威がモスクワ総主教座にあるかどうかについても、対立が続いた。
「コンスタンティノープルやローマとの関係を悪くしておくことは、ソビエト体制の教会イデオロギーにとって必須条件だった」とツボフ氏。「モスクワ総主教座は、1943年に、ソビエト体制が監督出来ないバチカンやコンスタンティノープルに対抗するキリスト教の中心とするため、スターリンによって再建された」と言う。
ツボフ氏は、ロシア教会は何十年もこのような考え方に影響されてきた、として「ロシアの主教とロシアの神学者の2世代は、この心理的な遺産と共に登場した」と述べた。「だから今起こっていることは、言ってみればソビエト体制、秘密警察KGBなどの遺産、教会に対するソヴィエト支配などを克服することだ。…これこそソヴィエト時代の不自然な関係が終わった後の諸教会の間の自然の関係だ」と言う。