「賛美歌は小さな説教。礼拝のオルガニストは、その説教を会衆に分かりやすく生き生きと再現する責任がある」と語るのは、米国ウェストミンスター・クワイア・カレッジ出身の音楽聖職者マーク・アンダーソンさん(ボストン郊外チェスナットヒル長老教会オルガニスト)。
13日、兵庫県尼崎市の日本基督教団立花教会で開かれた講演会には、アンダーソンさんの講演を聴こうと教会オルガニストらが超教派の諸教会から集まった。
「礼拝のオルガンを担当する者は、その日の礼拝の構成を考慮し、礼拝を通して自分は何をするのかを認識しなければならない」というアンダーソンさん。礼拝の中でオルガン演奏者は、賛美をする会衆と共に息を吸い、テンポを保つ責任はもちろんながら、その賛美歌の歌詞をよく理解して、会衆の賛美の色合いや感情を導かなければならない。そのためには、「今、会衆の賛美に何が起こってほしいのかを、オルガンを弾く前に考える」必要があるという。
アンダーソンさんは、オルガニストは「次の賛美の曲想の理解はもちろん、賛美の方向や結果」を心に描いていなければいけないとし、それを「まず前奏で示すことができる」と語った。
その前奏については、「何も特に難しいことをする必要はない」とし、「たとえば、四声を弾く代わりにオクターブのメロディだけで始めたり、それにテナーやアルトの声部を加えて変化させたりするだけでも、会衆に歌いだしのムードを伝えることができる」と提案した。
「会衆の歌が遅れると感じたら、オルガンの音を大きくするのではなく、むしろ小さくしてスタカットで弾いたり、低音の軽いリズムにより、会衆にオルガンが聞こえるようにしたりすることで、会衆賛美という豪華客船の針路をそっと変えることができる」と説明した。また、オルガンがなく、ピアノを使って礼拝を守る教会も少なくない日本の現状を知るアンダーソンさんは、「これらの奏法は、ピアノも同じで、スタカットや低音、あるいは逆に高音の利用などでの音楽の効果的な沈黙は、礼拝の賛美を生き生きさせる役に立つ」とピアノ演奏についても説明を加えた。
牧師と共に礼拝を進行する音楽指揮者としての役割も持つオルガニストは、賛美歌の持つ感覚的なものの理解だけでなく、ときに神学的理解もできる客観的な目を持つことが必要だという。「よいオルガニストは、その日の牧師の説教をより印象深くすることができる」「自分は説教をよく聞いて、その説教のあとに歌われる賛美歌の歌い方をその場で判断している」と語った。
マーク・アンダーソンさんによる講演会は、「ウェストミンスター・クワイア・カレッジ・イン関西委員会」(代表今泉キャロル、以下WCC関西)が主催するもの。WCC関西は、ウェストミンスター合唱団の創設者であり指揮者として有名な故ジョン・フィンレイ・ウィリアムソン博士が、キリスト教音楽のために創設したウェストミンスター・クワイア・カレッジ(現在のライダー総合大学ウェストミンスター・クワイア・カレッジ部門)の関西在住の卒業生らが中心となって活動している団体である。WCC関西では、毎年大阪を中心に礼拝音楽の活性化に向けた各種イベントを行っており、教派を超えた諸教会の協力と支援によって年々その活動の輪は広がっている。
アンダーソンさんが来日のたびに行う、京都、大阪、兵庫の個別教会の礼拝での奏楽奉仕は、講演の実践的お手本として、毎回多くの教会オルガニストらの注目を集めている。
WCC関西ホームページ(http://www.geocities.jp/wcckansai/)