米国で28日、宗教や人種などを理由に危害を加えることを禁止する「憎悪犯罪(ヘトクライム)」の対象を、同性愛やアイデンティティ、障害などに拡大した修正案が成立した。同法案に署名したオバマ米大統領は、米国の人権が新たな一歩を踏み出したと歓迎した。一方で、性行為の低年齢化問題や伝統的な家庭観を訴える保守派からは、すでに同性愛を保護する州法令は数多く存在しており、同法案は「性行為の権利を認めるだけに修正されたようなもの」だと非難する声もある。
同法案は、2010会計年度(09年10月〜10年9月)の国防予算の政策を定める国防予算権限法案修正案(6800億ドル=約62億4300億円)の一部として採択されたもので、米CNNによると、主要連邦法に同性愛者の権利保護が盛り込まれたのは今回が初めて。
98年に同性愛を理由に殺害されたマシュー・シェパードさん(当時21歳)や、同年アフリカ系であることを理由に殺害されたジェームズ・バード・ジュニアさん(当時49)らの事件をきっかけに法整備を求める声が高まった。成立した法案は2人の名前にちなんで、「マシュー・シェパード、ジェームズ・バード・ジュニア憎悪犯罪防止法」と名づけられた。
同法案を巡っては米国内のキリスト教会でも意見は様々。フロリダ州ノースランド教会(教会員数1万2千人)のジョエル・ハンター牧師などは、民族、宗教、政治や思想の表現に対する攻撃を禁止する同法を支持する立場を示している。一方で、保守系の有力団体、家庭調査協議会のトニー・パーキンス代表は、「国民は法の下で平等に保護されるべきだ。犯罪行為や個人のもめ事による暴力の被害者よりも、政府主導で政治的に形成された分類に属する被害者を手厚く保護するのか」と非難している。
共和党は同法案について、宗教的信念に基づいて妊娠中絶や同性愛に反対している聖職者たちが不当に差別される恐れがあり、保守派の言論封じ込め、信教の自由を制限しかねないと反対の立場を示してきた。
しかし、98年の事件当時から同法案に賛成の立場を取ってきたエリック・ホルダー米司法長官は、同法案が言葉による表現や主張を制限するものではなく、あくまでも暴力的行動を禁じるものだと強調。事件以来の集計でも、米連邦捜査局(FBI)に寄せられた憎悪犯罪は約8万件に上ることなどを挙げ、今回の修正案に理解を求めていた。
米国における憎悪犯罪法は1968年に成立。修正前は、人種や肌の色、宗教、国籍だけが対象であった。